東京創元社9月刊 松崎有理 あがり

あがり (創元日本SF叢書)

あがり (創元日本SF叢書)

第一回創元SF短編賞受賞作家の処女出版。うーむこのさあ新人賞っていうプライスの持つ意味というか、パトスというのか閃きかな、そちらが不足でリクルートスーツがお似合いで面接勝負みたいな新人賞だ。「原色の創造力」というアンソロジーを創元から出しているくせに“原色じゃダメみたいだな”と思わせる第一回受賞作みたいです。
「あがり」 タイトルがなんだか落語みたいで、でも中身は落語ではないからつまらない。

さあ、急げ急げ。放っておけば、世界は終わる。

怖いんだけどちっとも怖くない。主人公がイカルとアトリみたいなことば遊びは好きだが、このフラットな一人称、世界の終わりを語るのは役不足。まあこんな終末はわりとすてきではあるけれどたぶん作者の美意識の狭さのせいで、こんなのと一緒に滅びたくないとわたしは思う。
「ぼくの手の中でしずかに」 長命(不老不死)とセックスレスとの親和性はよくわかるんだが、その結果が異性を見分けられないというような視覚に症状が出るのかってのはどうかしら、逆に以前は主人公に精力があったようにも記述されてないし、栄養のない地では植物は必死に実をつけるみたいな主人公だったら起承転結しただろうに、こちらでも一人称の弱さが読める。
「代書屋シリーズ」 学者さんには蓮舫大臣の仕分け作業がそうとう堪えたんだろう。設定としては可もなし不可もなし。もすこしサバイバルしてもいいような、もすこしマッドサイエンティストのほうがいいような。
残念だけれどあまりに線の細い作家なので、読ませるパワーがもうこれ以上出る可能性がないなら奇抜さを極めるとかしてほしい。そうでなければ掛け合い漫才を磨くとか。大学キャンバスや仙台の街中も、もひとつ魅力的に見えないんだな。著者名から連想するのは“造反有理”。もっともっと造反してみてください、学者さんってけっこう大失敗から、新しい発見するんじゃないですか?