創元推理文庫07年8月刊 シャーリー・ジャクスン 市田泉訳 ずっとお城で暮らしてる

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)


ジャクスンの作品を読むたびに私が感じるのは、からだを駆け巡る“虫唾が走るような不快感”で、しかもそれは、苦いのに不思議と癖になってしまう、妙な味だ。

桜庭一樹の解説はちょっと中心を外しちゃっているかもしれない。購入してすぐに解説読んだのはいけなかったな。とはいえこの小説の最大の怖さは扉に書かれた梗概からも外れているし、いずれにしてもこれは「本の形をした怪物」ではない。もっとすてきで愛おしく不気味な恐怖譚でしょう。火事になったお屋敷に迫ってくる町内の住民たちはもちろん危険で闊達で、和気藹々なのはとても楽しげにメリキャットとコンスタンスのお城を壊してまわる部分は格別ではあるが、あの程度の下劣さ下品さを今では、格差社会日本国で戸梶圭太が「安いんだよ!」など一連の差別用語を連発して見せてくれたせいで、驚きはぐっと弱っちゃった。
えと、現物がないので、なんともいえないのだが糸井重里萬流コピー塾。移植ゴテでいいのか園芸用小シャベルのコピーで「わたしはあなたのすることをじっと見ていた、そしてこれからも」だったか。そんな不気味さ、火事以降のメリキャットとコンスタンスのなにか不穏で哀れで爛れたようないとおしい小さな暮らしを、無視できるぎりぎりの近さでずっと不機嫌に見守りたいわたしっていう読者。どうなんですかね、この小説のいちばんの面白さをスルーしてるのかな。
もうろくした同居人の爺さんが、チャールズという名の不審な侵入者にむけ嫌味をいうあたりは楽しかったですが、やっぱり「…ずっとこわれたあばら家で暮らしている」という陰惨さにこそわたしのなかの下品さがシンクロしてしまったという読後感。

「あのね、君、『ずっとお城で暮らしてる』って本…」
すると青年は顔を輝かせて(いや、実話なのだが)お盆を片手に、内緒話のような小声で歌いだした。
「お茶でもいかがとコニーのさそい、毒入りなのねとメリキャット…」
「あらっ、歌えるの」
「大学のミステリ研究会で、みんなで歌いました」
なんだ。全然忘れられていなかった。

最後にも一度桜庭解説だが、なんだかこりゃこのあたり、あまりにネタっぽくて片頬ねじれるぞ。