稲見一良「男は旗」19年3月新刊

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細谷風太と安楽さんとの出会い、つまりはのっけの21ページまでの楽しい展開にちょっと期待したのだけれど、それ以降のストーリーがあまりに粗雑で泣きたくなっちゃった。芳醇で馥郁たる物語を期待させておいて、肝心のメインストーリーのは紙芝居というか書き割りでしかなく、その落差に唖然としました。物語の構成力ってのは生命力と等価なのだと実感。ウィキで著者の一生を追うとこうなります。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%B2%E8%A6%8B%E4%B8%80%E8%89%AF

風太と安楽さんとで、暴走族をやっつけるだけのストーリー(普段は真面目に仕事しているとか)みたいな小品にすべきだったろうとの死者への苦言は届かないが、構想された物語の輪郭に著者の体力が追いつかない悲劇を、読者はやるせない気分で読み進むしかない悲しみの読書体験だった。できればこの3倍の厚さでメカニックな部分などワクワクさすようにトリビアルなディティールだったら膝を打ったり笑みがこぼれまくるような「男は旗 改訂版」になったことだろう。
「ダブルオー・バック」がこのミスで何位かになったというインフォメーションで始めて著者を知った。「ウィンチェスター70」みたいなオムニバスの展開に、すこし興を殺がれた─というか、あまりそういう小説に馴染んでなかったからか。そういう意味では、日本人的ハードボイルドと違う構想で勝負できる作家かと思ったのだが、年譜にあるとおりの短い作家活動だった。
「男は旗」にしても、著者の健康が作品に味方したなら、すてきな冒険小説になったになっただろうなと悲しい惻隠のまま読了しました。