文藝春秋の新刊 2006年9月 「ZEISSの双眼鏡」©大高郁子

今月(06年12月)のリーフレット「まつぼっくり」の背景色もそういえば、深くて冷たさを表すような緑とグレーが澱む沈鬱な静けさがあった。
でも、この9月のリーフレットの背景色は特別ですね。なんだかそれまでずっと続いていた“見る人をほっとさせるような色使い”がすこしも感じられない。こちらのステレオタイプな意識をはぐらかす。いやもっと意地悪な拒絶を感じる。
描かれているのは双眼鏡と首に掛けるよじれた紐だけ。カール・ツァイスという固有名詞に意味があるのか、この画は写実であるのか象徴なのかいくつも疑問は募る。とはいえダークで心が寒くなるような不機嫌さしか提示せぬ背景色だもの、間抜けなそれらの問いは、中途半端に発せられずに喉に呑み込まれたまま、生気を失う。
例えば旧東ドイツの監視哨。今も板門店を挟む軍事境界線の兵士たちはこんな色の空や大地を冷気の中でじっと見つめているかもしれない。精緻な光学機器の立体感を屹立さすには、こんな具合に緊張感漂わせたトーンやバックがなくてはいけないのかも知れない。イラストレーターのワークスを遡る旅を始めたわたしだから、こうしたエポックな作品の意味をもっと感じなくてはいけないはずだ。
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