ハヤカワ文庫4月刊 SF フィリップ・K・ディック ディック短編傑作選 アジャストメント

ディックはねえ、好きな作家ではないんだ。なんかこう独りよがりというか、も少し読者に媚売れよとか、SFを信頼しすぎじゃないの?とか、中学生時代から思っていました。世間の評価は高いので、そのへんそうとう気遅れです。
表題作の「アジャストメント」映画「マトリックス」のぐらぐら感を読むことで少し感じられて、ちょっと嬉しかった。順序は逆だがこちらを読んでから「マトリックス」とかみてないけど映画「アジャストメント」みて微笑するか哄笑するか、SFファンならどうするんだろう。でも眼前の風景が「立ち上がる」ように見え後方の風景が「崩れ去る」みたいに感じる人って、まれにでもいそうな気はする。脳が画像を処理する時間かドットの大きさみたいな関係でね。
「ぶざまなオルフェウス」たのしい作品ですねえ。フレドリック・ブラウン&マック・レナルズ編「SFカーニバル」にこういうやつなかったでしたっけか。

SFカーニバル

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488605032

ははあ、ネルスン・ボンド「SF作家失格」だな、Wikiでみてきたがもう無名の過去の作家のようで、こちらのアンソロジーでしか見ることができなさそう。拉致され連れてこられた未来世界はたぶんいまどきみたいで、レア物切手で有頂天だなんてあたりの下司さは未来人としてけっこう辛いですが、まあいいか。マック・レナルズの「火星人来襲」、ブラウンの「恐竜パラドックス」と編者の2作がきちんと記憶に残っているなあ。「…パラドックス」での倦怠みたいなぬるい悪夢みたいな読んでる最中に感じた毒っ気は、その後のわたしのいろんな面に非常に悪い影響を与えている。
もちろんあの頃、ブラウンじゃなくディックに心奪われていたならもっともっと悪いその後の人生だった気もするし、もうお爺さんになったわたしなので、これからはディックの長編なんかも気楽に読んでもいいかと思いもした読書体験でした。