幻冬舎文庫8月刊 森見登美彦 有頂天家族

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

なんで「ハリー・ポッター」がミリオンセラーで映画化で、有頂天家族がまるで話題にならないのか。「ハリー・ポッター」は第一部の数十ページで投げ出したわたしが、こちら一晩で読み終えるって、ずれてんのかなやっぱり。奥泉光の畢生の名作「『吾輩は猫である』殺人事件」と双璧…そこまでいうと嘘くさいか。でも、動物が主人公のファンタジーで擬人化をほとんど気にせず違和感感ぜず読める、これは非常に高得点だ。

桓武天皇が王城の地を定めてより千二百年。
今日、京都の街には百五十万の人間たちが暮らすという。
だが待て、しばし。
平家物語において、ミヤコ狭しと暴れ廻る武士や貴族や僧侶のうち、三分の一は狐であって、もう三分の一は狸である。残る三分の一は狸が一人二役で演じたそうだ。そうなると平家物語は人間のものではなく、我々の物語であると断じてよい。…以下略

プロローグの部分を抽出しましたが、ああそういうわけで民草以外はみな狐狸と天狗だから物語に人間臭さが少し薄いのだろうか。観光客やら外人さんなど、あと京都であくどくサービス業やってる人間臭い人々(あれも狸か、みな)たちの気配があまり感じられなかったのが少し残念─でもないか。まあこちらが勝手に文教観光都市をイメージしているだけで山口瞳の名言「京は田舎なり」かもしれない。
糺ノ森母兄弟はみな無事だったし、悪党である夷川早雲もその悪事はあくまで横恋慕が原因では責める気にもならないし、愚かな金閣銀閣兄弟のスチールバンツ漫才は最高だったしで、エンタテインしていたすてきなファンタジーでした。