集英社3月刊 道尾秀介 光媒の花

光媒の花

光媒の花

連作集としてレベルはあまり高くない。悲劇としてもひとつ個々の作品に縛りをかければ(にがりを利かせれば)よかった。日下圭介の巧みな犯罪小説に似て非なのは著者の心の弱さ─作家としてこれは致命的かもしれない─のせい。希望とか癒しとかを禁句にすべしといいたい。
全体のストーリーとは別に、第一話「隠れ鬼」はこれってひどくないか。ツルゲーネフ「初恋」と松本清張天城越え」のコラボなのだが、殺人の動機も方法も(少年の激情かよ)首をひねるしかないし、家庭悲劇として30年の沈殿にほとんど読者は意味を感じないだろう。息子の犯罪の前で父は自殺、母はすべてに蓋して生きるってそういうのありかな。
第3話のサチが第4話の幸になった時は、ちょっと嬉しかったが第5話ではトラックだけが繋がりですこしけチョンとした、まあ、その程度の連作意識なんだよな。ラストの昆虫少年の博識も、ひどく場違いで読みづらく困ったものだ。
あと急に名の出た日下圭介。短編で「紅皿欠皿」(だったか)、あとアジサイの根本に凶器を埋めていたら花の色が変わり犯行がばれるという短編など、いくつか今でも心に残る悲劇を覚えていいる。やるせなく憤りと悲しみに読了とともに浸るしかないだるくダウナーな読書体験でした。