角川文庫07年6月刊 綾辻行人 最後の記憶 ネタバレあり

最後の記憶

最後の記憶

ネタバレと記してみたが、まあこれって本格推理じゃないわけで、カバー裏の梗概では“切なく幻想的な物語の迷宮”と記してあって、なんのことやら。解説(千野帽子)にその辺は詳しい。

…その結果本書は、ホラーの要素、謎解きミステリの構造、ファンタジー的な世界観、クライヴ・パーカー流のグロテスクな場面を持ちながら、どのジャンルにも収まらず、既存のジャンルや型からするりと身をかわす小説となりました。─後略

情けないほど過激で的外れに思える“読者の品格”的な物言いから“読み方・驚き方指南”を開陳し始める解説後半については、評者の芸術に向き合う姿の、あまりの了見の狭さに呆れて横においておくしかないのだけれど、小説の評価は評者がいうところの“するりと身をかわす”部分での快不快を個別に吟味すべきでしょう。
早期痴呆となった主人公の母に残る“最後の記憶”がショウリョウバッタの飛ぶ音とともにあるという恐怖の謎が、第1の主題。痴呆の遺伝への疑念と自身が小児殺しの犯人ではという怖れにおののく主人公が、異性の旧友と懐かしの地を訪ねるという第2の主題。そのふたつで充分普通の小説になるはずなのに、それをこんなふうに“囚われた母を息子が救う”なんてマンガみたいな冒険ロマンにする了見が、どうにも分からない。
ワハハ、ネタバレ。ショウリョウバッタの羽音の恐怖って、オルファのカッターナイフをカチカチ伸ばす音だそうです。