今年読み終えたままの本たち
マイクル・ベイデン&リンダ・ケニー 藤田香澄=訳 ハヤカワ文庫 06年6月
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何でこんな本買ったかというと、カバーの女性イラストがモー娘。の矢口みたいないい女にみえたせいだけでした。プロローグで美人弁護士がミスっちゃう(被害者女性がワルだったのが検死官のせいでばれるみたい)シーンまで読んで投げ捨てておいたのだけれど、ハヤカワの試み「強い物語 ハヤカワ文庫の100冊」に選ばれていたので、読み返した…が、やっぱり不発。
物語としては検死官が弁護士をにわか助手に仕立てて解剖するあたりがいい味だと、夫妻して頑張っちゃったかもしれないが、ま、辟易せざるを得ない。ベトナム戦争のトラウマはアメリカ人全体でもっともっとお悩みなさい、湾岸もイラクもアフガンも悩むことになるだろう。闘争の第一義は互角の相手に死力を尽くすことでそうでないとこんなふうに病気になっちゃう。
逢坂剛 恩はあだで返せ 集英社文庫 07年4月
- 作者: 逢坂剛
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/04/20
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お茶ノ水署シリーズはむかしから苦手で、志水辰夫の「渤海・上海」モノみたいにわたしは位置づけていて、それなのにどうして購入したのか、もう不明だ。なんだかこう、ユーモアだのギャグをきちんと配置している匙加減みたいなものが鼻につくんだな、いっそ赤川次郎みたいな「それしかなさ」だとまあ読める(読まないけど)かもしれないけれど、逢坂センセイだと痛々しくなって読後感はあくまで苦い。ふつうのハードボイルドでいいじゃないのと、頑張ってる作者にはすまないがつい忠告したくなる。
J・G・バラード 柳下毅一郎=訳 クラッシュ 創元SF文庫 08年3月
- 作者: J.G.バラード,柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/03/24
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この本読み終えてから、なんだかてきとうに感想文をすらすら記すのがとても辛くなった。わたしにとって檄ヤバのリトマス試験紙みたいでSFやポリティカルフィクション、純文学でも恋愛小説でもクラッシュのフィルター越しに作品としてまだ成立しているかを見てしまうようになっちゃったのだ。
この本、わたしが大学生の頃書かれちゃったわけで、となると今まで「趣味は読書」といえたのはこの本がずーっとずっと翻訳されてこなかったせいなのだとわかると少しバカバカしい。人と鉱物との融合がテーマで、融合はもちろん死と同列なわけで「ぐちゃぐちゃな死」でない「死」はないとするなら9.11もイラクもアフガンも秋葉原の加藤も、東金の勝木もまあ同じだという、厭世と唯物という強烈な文学の毒が結晶になっている。
アゴタ・クリストフ 堀茂樹=訳 どちらでもいい ハヤカワepi文庫 08年5月
- 作者: アゴタクリストフ,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/05/08
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ぶっきらぼうな文体が魅力の掌編集。何か不細工なものが突っ立っている奇妙な光景がこちらにわりとスマートに伝わるが、でもじつのところそんなもの伝わってもこちらには感動も興味もないというような実も蓋もない読書体験でした。処女作だそうで、その才能は強く伝わった。
誉田哲也 ストロベリーナイト 光文社文庫 08年9月
- 作者: 誉田哲也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/09/09
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もうぼくらは「マークスの山」を越えてきたのだ。エピゴーネンなど読みたくもないし、だいいちプロローグからしてこちら作品全体が平板すぎて模倣にすらなってない。
直木賞という“大衆文学の水準点”に「カディスの赤い星」があり「わたしが殺した少女」があり「マークスの山」があり「柔らかな頬」があるわけで、それらを消化しちゃったぼくたちだから、スタンダードとして要求される作品のレベルは相当高くなってしまっている。それに反面には「クラッシュ」があるわけだしね。ま、そうはいってもストーリーテリングや文体など、こちらをうならせる要素はまだいっぱいあるだろうし、それを求めて読書三昧し続けるわけだし。
図子慧 駅神 ハヤカワ文庫 08年9月
- 作者: 図子慧,こさささこ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/09/25
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小説以前のものであり「易入門指南書」でしかないですか。プロローグの飛行機関係、あれ無用というより有害でしょ。易のスタイルを勘違いさせ小説を読ませるおそれがある。それと短篇の構成が黒後家蜘蛛なのか毒入りチョコレートなのか、まあどちらでもいいけどただのお勉強発表会で、小説である作者にとっての利点にまで至ってないから読む喜びを得られない。
中村彰彦 山内昌之 黒船以前 パックス・トクガワーナの時代 中公文庫 08年9月
- 作者: 中村彰彦,山内昌之
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/09
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保科正之という人物については、断片的な知識を司馬遼太郎のエッセイなどで得てはいたけれど、まあこちらで一章割いて語っていただき、名宰相ぶりを知ることはできたが、それにしてもものすごくひどい義母(お江与の方)をもっていた正之さんなのに、自分の奥さん(おまん)も殺人者だそうで、なおかつ間違えて娘を殺しちゃうというひどいうっかりものというか、まあけっこう男尊女卑も建前だけだった時代みたいね。
いしいしんじ ポーの話 新潮文庫 08年10月
- 作者: いしいしんじ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/09/30
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わたしにはちょっとわからないですね。終盤を再読したんだけれど、そうしてみてもポーの意味が理解できない。ポーは溺死したのか、うなぎに食われたのか、どうして舟の座礁を救ったんだか、ウミウシの子は生まれたんだか、最後に出現する白いハトはなんなんだか。
加門七海 鳥野辺にて 光文社文庫 08年10月
すべてこれ恐怖譚にはなってはおらず作者の理知と饒舌に辟易とする。ことばは裏切りの尖兵なのですね。人はもっと無駄なもので死んだり化けたり人生弄んだりする。というわけでカラクリ左甚五郎がもっともシュールで楽しく怖ろしい。甚五郎の肉体を削るさまは「クラッシュ」でもあるような、ないような。
ダイアン・デュエイン田村美佐子=訳 駆け出し魔法使いとはじまりの本 創元SF文庫 08年10月
- 作者: ダイアンデュエイン,Diane Duane,田村美佐子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/10
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チマチマしてはいるがファンタジーとしての完成度は高く、続編での作者の昇華ぶりを期待したくなる作品。魔法を使い盗られたペンを取り戻そうとしたらホワイトホールを呼び寄せるという度し難さは大層なものだと思う。ちょっと人格入りすぎのホワイトホールだけれどまあ本来恒星一つぶんの質量が転移した物理的磁場を登場人物にする度量が好きだ。フロックでなければいいのだけれど。
いじめられっ子のニータ、彼女はなぜ自分がいじめられるのかを知っているというのも、ある種の諦念を含みこちらを魅了する。まあ実をいうと、自分の弱点をきちんと把握している人はいじめられはしないと思うけどさ。とまれ、魔法使いという職責は環境省の職員程度(NHKの農事通信員でもいい)には地上に配置されていそうでこちらも想像力をかきたてられはした。
内海文三 ぼくが愛したゴウスト 中公文庫 08年10月
「飢餓同盟」は尻尾のある主人公でした。こちらは尻尾のない主人公だけれど尻尾で性的にいっちゃったらしくそれはそれなりに悪い風景ではない。ただし「クラッシュ」で記したとおりでわたしはこんなのもう小説として咀嚼はできない。
こういうほんのちょっと風景の変わった世界での市井の暮らしみたいなSFは好きでというか、わたしの世界だなんて思ってたのに点が辛いのは、われながら「好みというのは変わるものだな」というしかないか。
角田光代 さがしもの 新潮文庫 08年11月
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 新潮社
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小説として不出来。この少し前に「古本道場」という作品を読んでるわたしですが、いずれにしてもビブリオマニアである作者を理解はできても、わたし的には共鳴共振はまったくないです。片岡義男の文庫をタイのリゾートで下痢の身でよんでる女性の妄想っていうのはわからないでもないけど、やっぱりただそれだけ。とくに「さがしもの」という連作タイトルになっている短篇のあられもなさは、ほんとうんざり。フェミニンのビブリオってわからないです。
広瀬正 T型フォード殺人事件 集英社文庫 08年11月
T型フォード殺人事件 広瀬正・小説全集・5 (広瀬正・小説全集) (集英社文庫)
- 作者: 広瀬正
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かつての集英社文庫でわたしはお世話になった広瀬正。昭和58年前後におなじ和田誠カバーで文庫初出だった。「ツィス」は広瀬の死のちょっと後に河出で読んだと思うがそれ以外のSFは集英社文庫で唖然としたりため息ついたりして読んだ。帯には本屋大賞とか復刊せよとか、まあそんな文字があって、でも「エロス」も「マイナス・ゼロ」も再読可能かと自身に問えばまあちょっと難しいかなというのあたりか。たった一つの疑問なんだが「マイナス・ゼロ」で未来から来た少女との一夜で彼女は妊娠し、過去世で苦労して出産・子育てするんだがそのへん(妊娠にいたる行為)きちんと記してたっけか?今でも疑問なんですが。
竹内薫 竹内さなみ シュレディンガーの哲学する猫中公文庫 08年11月刊
- 作者: 竹内薫,竹内さなみ
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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まあなんにしろ、30年くらいむかしから世の中、とてもすてきな具合に世の中に“よい入門書”が流通し始めた。30年遅く生まれていたらよかったかもしれないがでもそうすると入門書から先に行くのが厄介か。この本でもウィトゲンシュタインから大森荘蔵まで何人かの思索者たちの軌跡や躓きやたたずまいを平易に読ませてくれて、わたしはうれしい。続巻はなさそうな前世紀の出版物でした。
スレンドラ・ヴァーマ ゆかいな理科年表 ちくま文庫 08年11月
- 作者: スレンドラヴァーマ,Surendra Verma,安原和見
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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シュレ猫よりもらくちんだが思索への道ははるかに遠い。でもインド人が記した科学入門書をわたしがこうして読むというのもとてつもなく不思議な道のりのようでもある。数独のオリジンあたりにオイラーがいるらしい(ラテン方陣)ということを知った。
村上春樹 意味がなければスイングはない 文春文庫 08年12月
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/12/04
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いけませんね、春樹さんのエッセイみたいな奴、鼻について読めなくなっちゃった。これじゃなんだかただの自慢話じゃないのか。ノーベル賞は大衆に向けて偉ぶってももらえないぜ。