東京創元社10月刊 青崎有吾 体育館の殺人

体育館の殺人

体育館の殺人

第22回鮎川哲也賞受賞作です。鮎川哲也賞の過去の受賞者リストは以下に。

http://www.tsogen.co.jp/ayukawasho/ayukawatetsuyasho_list.html

カバー裏に記された著者プロフィールはとっても短い。

1991年、神奈川県横浜市生まれ。現在、大学生。
鮎川哲也賞史上初の平成生まれ。

エチュード=習作とはいわない(小説として破綻はないので)けれど、梗概とチャート図になんとか肉付けしただけで物語・ストーリーに厚みや深みなどはまったくない。また視点の混乱はもうほとんど全体に及び、ストーリーが単純なので見誤りはないけど主役のブレの多用に苛立ちや戸惑いを常に感じた。名文でなくてもいいんだがクーンツ「ベストセラー小説の書き方」だけでも執筆時に参考にしてほしかったな。
とはいえ、単純なストーリーで密室の謎だけを追えばいい読者の立ち位置はとてもラクチンで、スウェーデンの警察署で上司や同僚から理解されず陥れられかけ、心身ともに屈託にあふれくたびれ果てたヴァランダー警部が孤独で寄る辺のないうつうつとした捜査でくたくたになりつつようやく光明を見出すみたいな分厚いミステリなど読むのに比べると、プロットなどあっけらかんとしすぎで読後感はとてもよい。
えと、増村という卓球部顧問の教師はどうして容疑者から抜けたんだっけ、読み返せば出てくるのかな、忘れちまったぜ。1学年300人とどこかで記してあって、じゃあ生徒と教職員で1千人がざわめく場所での殺人っぽさを醸す努力や配慮は最初から無視して、中小企業の事務所とかくらいのスペースでの密室事件に収斂させた方が面倒ではなかったか…ああいや、現在大学生の著者なのだから、地のついたフィールドというのは難しいか、でもだったら夏休みでも日曜日でもいいから千人のうごめく場所での事件(翌日、千人から事情聴取してるみたいだし)にはしない方がよかったのでは。
探偵役のキャラはぜんぜん立っていない。同級生などに訊問するあたり、すごく読みにくい。坂木司のタイトルは忘れたが引きこもり探偵がなんだかすごく無礼な喋りで読中興が引いたけれど、こちらでも違和感が強かったな。その他警官たちのキャラ、警察捜査の在り方はひどいし、教職員や保護者などの姿、ついでにいえばメディアの存在も皆無なんだな。
いじめや恋愛関連などの学生生活ドロドロ・ギトギト編をひとりで受け持つこととなった釘谷さん、どうもご苦労さまでした。探偵役を含めて高校生の生理がほとんど描かれることなく、つまりは作者の若さの証明がちょっと少なくて寂しかった。カバーのイラストは田中寛祟。女学生の胸が異常に大きく描かれてはいないだろうか。