ネタバレ伯方雪日「誰もわたしを倒せない」

誰もわたしを倒せない (創元推理文庫)

誰もわたしを倒せない (創元推理文庫)

昨年十月に購入した本書、推理小説としては最初から間違っているというのか、第1話で猪木がモデルみたいな寿社長からの“天の声”で捜査が打ち切られなければ、犯人捕まってるじゃん。
第3話では、たしかに“うまく騙された”と手を打った。おっかさんの時代に飛ぶとは考えたものです。それまで業界内の同性愛(お稚児さん)嗜好をきわだたせていたので、女子プロレスラー養成合宿所と、彼女たちが“強い男”に群がるストーリーとは終幕まで気付かなかった。
とはいえ、殺人トリックはちょっと冴えない。リングのロープを投石器に見立てるって、ディクスン・カーも“ちょっと無理かな…”と首を傾げたに決まってるぜ。普通にあるものを凶器にするのは素敵だけれど、その場合は過失致死みたいな“偶然その場で…”凶器として作動させ、“その裏”の物語を措くほうが座りはいいというのかな。
20数年の時代を超えて、母と子が同じようにアイデンティティを崩壊さすような事態に放り込まれ、まあ事件が起る。その母と子のドラマという発想が、この作品を生み出す第一の動因だったのだろう。でも、そうなると母が孤児院に猪木の子を預けるというあたりが分からんのだが、まあ考えるだけ野暮ってことでいいのか。
どうでもいいけど、スポーツ平和党って今はもうないのか。猪木とか新間あたりが、プロレスの台本なみの政治を行なってはいけないんでなくなって正解かもしれない。とはいえ馳、大仁田、神取とプロレス出身政治家がいるし、その他江本、橋本、釜本、荻原、旭道山…このたびの参院選では友近聡朗というサッカー選手(Jリーガーではなさそうだが)も当選だそうで、けっこうなプロデューサーがいるなら常時衆参で議席を複数持てそうだし、元五輪選手である麻生さんの下で(なくてもいいけど)勢力を誇示することもできるかもしれない。
スポーツ界でのゴタゴタや魑魅魍魎の周辺からお金や人事や名誉をめぐる下司な事件が起るけれど、それらを隠蔽し穏便に収めようと元レスラーの国会議員どもが圧力をかけたりノコノコ調査に乗り出したり、変なパフォーマンスで煙に巻くとか、そんな妄想で作られたプロレスサスペンスとして本書が描かれていたらもう少し楽しくて愛らしいミステリになっていたのではないかと思うが、著者はちっともそうは思わんよね。