創元推理文庫07年12月刊 桜庭一樹 少女には向かない職業

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

「荒野」とこれとを比べちゃ悪いのかも、でもあちらにはサービス部門というのかミステリやらスリルそして官能部門も、もすこし必要だったはずではと思っている。そんな大衆小説としてはこちらの勝ちか。でもこちらも少し役不足ですが、主人公の境遇やドラマの展開など犯罪小説として類型的であるし、逆にいえばそういう環境なのに両少女とも性的虐待にかんしてはほのめかされてもいなかったりと、現代的な味付けとしてはサービス精神というより著者の自信、強度が不足。よく出てくる対戦型ゲームに関しても同じか、アキハバラ風なゲーム機性向とは無縁なただのアイテムだしな。ま、つまりは読書好きの少女のものがたりとして、も少しドラマ性をきわだたせてもよかったかも。田舎の漁村っていう縛りも効いていたとはいいがたい。もひとついうと、とても駄目な葵の母だが、その駄目さにもひとつ訴求力がない。─ま、悪口はこのくらいで。
“用意するものはすりこぎと菜種油です、と静香は言った”が、一章のタイトルで、いやあ、すりこ木はいいなあ、好きです。わたしが懸賞小説に応募していた時の「縛り」のひとつに“武器にすりこ木を使う”っていうのがあってですねえ、でもわたしの場合はすりこ木は木刀の代わりにチャンバラで使ってましたが。こちらの小説の場合未必の故意のツールとして、ま、なんとかなったようでよかったですね。ロアルト・ダールを擬した“…冷凍マグロと噂好きなおばさんです…”のほう、ま、これはイロモノというのか可笑しくてよかった。
“「少女」という概念”を語ったわりには噴火で飛ばされた女子高校生に“少女”をどうにも感じようもなかった「ブルースカイ」と同様で、性的な意味を無視した“少女性”というのがもうひとつこちらにピンと来ない。そのくせ“恐るべき子供たち”ではないんだよな。