ドン・ウィンズロウ「砂漠で溺れるわけにはいかない」創元推理文庫 06年8月11日刊


砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)

ニール・ケアリー主人公の「ストリート・キッズ」シリーズ、最終巻です。ストリート・キッズの4分の1くらいの厚さしかない。中篇ということなのかと読み進み、爺さんに砂漠の真ん中で巻かれたあと(107ページ “10”)でいきなり大きなファイルを作者(かケアリー)からずどんと渡され目を白黒させちゃいましたよ。

…自己弁護のために言っておくと、ぼくはその時点で、いま知っているようなことを知らなかった。…読者の皆さんに同じ思いを味あわせたくないから、ここでそれを挙げておこう。

という科白のあとで保険会社の女性管理職と顧問弁護士とが往復させた、ある放火事件の支払いをめぐる追伸だらけのファックスが(の最後に逃げ出した爺さんの名がある)置かれている。それなり楽しいファックスの内容ではあるけれど、その後のページにはこんどは放火犯人同士の通話内容がきちんとおかれ、もうおじさん疲れちゃいましたよ。

もちろんストリート・キッズシリーズがきちんとしたミステリーだなんてそれほど思っているわけではないんだけれど、これじゃあんまりだよな。
解説(西上心太)中、穂井田直美が「シリーズに区切りをつけるための後日譚(でしかない)」と位置づけていると記しており、解説者はその捉えかたに疑義を呈してはいるんだけれど、まあなんというのか、やっぱりこれはただのカーテンコールでしかないですね。
ニールのお喋り、皮肉、あきらめのため息など、毎度の芸(こういうの好きなんだよな)は楽しめるけれど、上記107ページ以降は彼の独白文体ではなくなり、多面的というのか2時間ドラマ的なアングルの変化のどたばた(お団子みたい)にただ驚くうち、とても不思議な幕引きで、強引かつ無礼にストーリーは終了する。
これじゃストリート・キッズ(的なストーリーテリング)ファンは納得できないぞ、もちろんわたしも。運命の107ページ寸前、爺さんに車を盗まれまかれてしまったニールが状況を、警官に説明するあたりのおかしさはとても嬉しい。まあわたしの見解ですが、この107ページで分け隔てられた中編小説。それ以降のパートはまあ梗概の域を出ません。解説者も穂井田女史も、まあそこまで露骨にいえなかったんだろうが、何らかの形而下的な事情で、物語小説であることを放棄したレジェメみたいなものを読まされたみたいで情けない気分しか残ってないなあ。