光る画質で真っ赤な表紙の雑誌が、平棚で横たわっておった

文庫2冊分のスペースを占有する大きさの雑誌だから結果的にはそうなるわけで、でもだとすれば100%オレンジとしては、横に置かれた状態と読む態勢の状態とをもう少し深くかんがみ、パンダのイラストなど工夫してみてもよかったのではないでしょうか。
でも、とてもおしゃれで持ち歩く幸福をくれそうな素敵な装幀。A5版雑誌としては秀逸です。

http://www.100orange.net/

うひゃあ、なんだか100%orange、新潮社プロパーなんかじゃないんだということをまずは知る。とはいえ、雑誌中におかれた多くのイラストを含めおふたりの作業の結果、とても愛らしく誇らしい雑誌となったと思います。見た目は立派だが、でもどういうコンセプトで作られた雑誌なのか実はざっと目を通しただけのわたしにはまだ分からない。あるべき言挙げもどこにも見えないしなあ。
目を通したいくつかに、ちょっとだけ言及しちゃおうかな。

川上弘美「長い夜の紅茶」

わあ、うまいなあ。優柔不断で曲折しがちな主人公の独白が、自らを「平凡」と定義つけた30代主婦の冒険の予兆みたいな、あやふやだけれど地に足のついた不穏な決意がとても息苦しい。ラスト義母の家の一室で寝ている家族の寝息が少しずつずれているという、とても息苦しい閉塞感に読者のこちらも息をのんだ。

大平健・倉田真由美「yomyom診療室」

これは驚きましたね。河合隼雄だの岸田秀だの、精神分析者なんぞ一刀両断だ。いやあ時代が変わったんだねと、感嘆した。

倉田あ、患者の症状にもはやりすたりがあるんだ。
大平今流行っているのは、リストカットですが、もうそろそろ終わりそうです。ファッションと同じで、症状の流行も大抵、20歳前後の子から始まるんですよ…(略)…一時期「わたしは多重人格です」という人ばかりだった(笑)」
倉田自分の悩みに対して、どうリアクションするかも、流行に左右されるんですねえ。

へへへ…。やべえな。わたしなんぞもそういう流行語大賞みたいな症状でのたうちまわりそうだ。とはいえ、読み進むならわたしみたいな人物は決して精神病になりそうもないとも喋ってるぞ。これは聞き捨てならない。

大平「…特に精神科の患者に多いのは、自分の嫉妬心とか周りの嫉妬心に気付かないという鈍感な人が多いんです。…(略)…決して自分が嫉妬されていて、同僚が意地悪しているとは思わない」
倉田「やっぱり自分を客観的に見られてないんだ。その鈍さは致命的だな」

まあ、その、人間性という言葉でいうと、嫉妬や羨望のあまりノイローゼになるとかありそうなんだけどそうではなさそうというのが臨床精神科医の演繹的な答えのようだ。
とするなら、わたしは精神病になりたくともなれない。とても悲しい正常人ということでしょうか。

あと、ほんのひとこと。
12日ダイアリーで、検索したらSNS中エントリが引っかかったと記した。

http://d.hatena.ne.jp/kotiqsai/20061212

雑誌を読んだ人と紹介したのだけれど、よく読んでみたら書店で斜め読みして「…買いたいというほどの魅力は感じず…」だったようです。「現物を見てきたので紹介…」というあたりで勘違いをしてしまった。
あと、編集者のことばがどこにあるのかと、購入した雑誌を探したんだがそういうページはどこにもなく、エントリ中の引用は新潮社のホームページからのようだった。
読んでない人のレビューを勝手に紹介して、そのうえでこうしてほじくるのはよくないことだしSNSだし、でも検索で引っかかるっていうのはまた別だしなあと、なんといっていいのかわからない。
ただし、ヴォネガットのレビューに太田光は蛇足であるという断定はいただけない。たしかにたいした紹介ではないんだけれど、さすがお笑いの人だけにきちんとラスト1行でしゃれて落としてます。それを含めて蛇足ではあまりに「話芸」を貶めることになりそう。