文春文庫09年12月刊 藤原智美 暴走老人

暴走老人! (文春文庫)

暴走老人! (文春文庫)

「こころの薬─」と同系列の書籍だろうか。ともに時代論として頷ける部分は多くある…「失われてゆく身体性への抵抗」「透明なルール」「丁寧化」その他、わたしたちの苛立ちはわたしたちの防御によってますますいらだたしいシステム社会を加速させてゆくという悪循環をもちろん日々感じていて、でももちろんわたしは暴走はせず精神も病まず、悲しく生きてゆくしかない。
だとすればその悲しさこそ、ある種の鍵なのだろう。具体的ではなく“不安”と同義語の悲しみはリストカットする流行精神病者や暴走老人にも大量に溢れていて、そしてもちろん私にも大量に溢れ、顕在化しないその大量の悲しみやもがき苦しみの重積とはいったい何なのだろうとひどく重い問いが残る。
わたしの父は、意地悪だったしよく怒る人間だったし他人を傷つけるのも気にしなかった。若いころから死ぬ寸前までそういうキャラクターで、だからわたしはそれを身近にみていて、重く辛く悲しい堆積が魂に溜まってしまっている。どうなんだろう、うちの父は何かに耐えていたのか、抵抗していたのか、それともただの快楽だったのか。
父は孤独だったし、でもわたしも孤独で、そこでは暴走や抵抗は無関係だろうか。