文藝春秋6月刊 岩崎夏海 チャボとウサギの事件

チャボとウサギの事件

チャボとウサギの事件

現代の《神話》としてのジュブナイル(少年少女小説

という帯に惹かれて購入しました。なんか紙質や装幀がペーパーバックみたいなのも嬉しかったが、なんだこりゃという読後感。岩崎夏海という作者ってあらま「もしドラ」のひとだそうだ、ありゃりゃ大きな間違い、海という名前が入っている作者名ってのでわたしが勝手に頭に描いたのが若竹七海青井夏海。つうことは青井夏海と間違えたんだな、かといって青井夏海が好きだったわけじゃないんだがそうか「もしドラ」の作者と知っていたらまあぜったい買わなかったろうな…って読んだことないのにごめん失礼、でもこちらの読後感をあてはめるならたぶん「もしドラ」もこちらと同程度の駄作だろう。
なにが悪いかをいちいち羅列し咎めてみてもはじまらないのだが、いずれにせよこんなの小学生の日常でも生活意識でもない。バカだな岩崎先生ったら、おんなじ沼でどぜうを捕えていればよかったろうに。数年前に読んだ栗田有紀のABARE・DAICOという中編がね、よかったんだよジュブナイルとして。

http://d.hatena.ne.jp/kotiqsai/20070805

身障者とか犯人とか美男美女や正義の味方や、まああまりにドラマドラマしてるのね岩崎夏海。イシューがないとストーリーが続かないのか、インターバルとかそういう息継ぎを覚えてちょうだいね、たぶん多くの読者がわたしとおんなじため息を読後についていますが。まそういえばタイトルも酷いよね。「もしドラ」は悪くないと思うよ、「サド・マラー」や「博士の異常な…」とかそういう長いタイトルは好きなんですが。

追記 6月21日 岩崎夏海氏への返信

著者の岩崎夏海氏が、氏のブログでわたしの読み方を「あちゃー!」というふうに腐し、もっとドラマをと記しています。申し訳ない、わたしのようなオールド読者が現代文学を衰退させてたのね。氏のブログ「ハックルベリーに会いに行く」より、石丸批判の部分を貼っておきます。

http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20120621/1340254199

わたしのブログ中で“柳の下のどぜうを狙えば…”と記しているのはいまでも本音。たとえば「思春期のぼくが友達の母の患う先端恐怖症を直そうと河合隼雄を読んだら…」(仮名)ごめん、最悪のタイトルだけど、でもまあ岸田秀でもフロイトでもいいんだが、依存的傾向が強い隻眼の少女が幼なじみで少女の母が先端恐怖症の主人公は暴力的気質の持ち主かと悩んでいる少年が思い悩んだあげく臨床心理の名著を読みつつ、いろいろを解決しつつ学生生活をエンジョイするとかではいけなかったか。もちろんわたしはそんなの読む気もないけどミリオンセラー作家の次回作を待っている読者にはそちらのほうが充分届いたでしょう。
まあ昨日も記したが帯の惹句が悪いんです、それは版元のせい《現代の神話としてのジュブナイル》といわれればみな注目もする、ル・グィンゲド戦記」とか宮崎駿「天空の城 ラピュタ」とかそういうものと双璧みたいに読者も身を乗り出すし。パッケージにケチをつけたのは著者には無関係です。“少年よ神話になぁれ〜”とエヴァンゲリオンで歌われてるけど、まあそれって死と再生の物語があるという意味だろう、「ウサギとチャボ…」に神話的な要素ってあるかな、友人工藤は骨を砕かれ死を見ただろう、幼馴染のリコは弟橘姫のように愛する者を守ろうと身を挺した。だが主人公の少年に“死と再生”はなかったか。もしかして主人公少年が意識下に秘めていた暴力的性向に目覚めてドラマが膨らむとかあとリビドー関連かな、神話になる要素はあったんだけれどね。リビドーとかいすってみたけど隻眼の美少女への恋慕みたいなものが言外に記されていない(記されているのかな?)のも弱いかな。
栗田有起「ABARE・DAIKO」がジュブナイルとしてよかったぜとも記したけれど、あれはまあ希有の傑作、いろんな人に読んでほしい作品です。一人称主人公の少年は小学5年生の小松誠ニ、健気に生きてるし世間は冷たいし彼女はいないし、でも生涯の友はいるんだ、グーちゃんハーちゃんもすてきなキャラだし。

ぼくは目標を持っている。
ずばり、小松もなかなかやるやつだと、まわりから思われることだ。
 集英社文庫 栗田有起 お縫い子テルミー 「ABARE・DAIKO」 106p

小学5年生の夏休みの事件とかイライラとか悲しみとか成長とか、なんだろうなわたしの少年時代とたぶんシンクロできる主人公だったんだろう。もちろん岩崎夏海氏のいうとおりで、栗田有起ジュブナイルはいまのところ文学史にも学園指定図書にもなりそうにない、とても残念、でももちろんそれはわたしの個人的な感想でしかない。岩崎夏海氏のジュブナイルが、あまり本を読まない若い人に届き、そういう人が読書の喜びを知るならうれしい。アフィリエイトではありません、興味のある方はAmazonみてね。

お縫い子テルミー (集英社文庫)

お縫い子テルミー (集英社文庫)

追記の追記

後日「ABARE・DAIKO」の《感想文》を記しました。