東京創元社 5月刊 伊坂幸太郎 夜の国のクーパー

夜の国のクーパー

夜の国のクーパー

発売から1ヶ月弱で、文芸関連では第6位とか。著者名である程度売れる人かもしれぬがとはいえ岩崎夏海先生が嘆いていた日本文学の衰退に関する杞憂に対しては「まあ、それなりなんとかなるんじゃないですか」と困った笑顔で返せるか、やっぱりみなコクのある作品を読みたがってるわけですし。
松本清張とか司馬遼太郎とか赤川次郎とかみたいなミリオンセラーは今後そう出ないかもしれないが、まそれは多種多様な趣味の時間がそうさせるわけで、文学というジャンルに関しての王道は一応まだ確保されていると思う。
とはいえ、こちらちょっと弛緩した読み心地だったなあ。寓話として屹立しているのかは疑問。ガリバー旅行記の換骨奪胎の失敗作をわたしは今年の春とても悲しい気分で壁に投げつけた(山口雅也「狩場最悪の航海記」)のだけれど、もちろんこちらそういう失敗は犯してはおらず、語り手の猫トムくんの口調などが心地よかったせいで、作為が鼻につかぬまま読み進められた。とはいえ、最終部では物語をきちんと片づけ明示しようとする“エンタ系作家の悪癖”が残念だったかな。村上春樹とか跋文で敷衍した「同時代ゲーム」とかに肉薄したかもしれなかったのに、タネ明かし部分が大いに腰砕け気味でアレゴリー全体を包んでいた悪意の保護膜がとても陳腐にはがれてしまい、いまでも惜しいものだとしょんぼりしちゃうぞ。
昨日の朝日新聞科学欄で“犬の知恵は1歳半の小児程度”と記してあって、だったらネコさんたちはどの程度の知性なのだろう、いずれにせよしゃべる猫なんだから、この世の猫とはちょっと違う進化系列なのかもしれないが。