文春文庫5月刊 中島義道 観念的生活

観念的生活 (文春文庫)

観念的生活 (文春文庫)

楽しい読書体験だった。思索への憧憬とか知的興奮とかスリリングさとかではなく、最高に下品でスキャンダラスな私小説めいていた「ぼくは偏食人間」をある意味昇華させた文章の座り具合と、でもやっぱり続く著者身辺のおかしな不穏さ苛立たしさに、読者の尻の穴がムズムズするこういう読書はゾクゾクさせられとてもすてきだ。残念ながら真面目なふりした永井均の解説は的を外すふりだけは見事だが読んでるこちら向けではく著者そのものを茶化しているだけで悔しいな。
時々すてきな哲学的アフォリズムを放り出していても、そこには懐疑とか批判とかではない著者の偏見や癇癪だけが記されていて著者はニーチェをこき下ろしているけど、文筆家としての魅力はよく似ている。あとがきで著者はもう大学教授ではないと宣言していて、となるとこうした著述の方面で生きてゆくしかなく、だとすれば氏の魅力である“人間嫌い・クレーマー気質”その他苦い言説の新たな完成形を今後エッセイ中で示してほしいな、注目していきます…って、今月新潮文庫で「人生に生きる価値はない」も購入しました。
ま、この人にはジャーナリスティックな才能が強くありすぎ、タイトルで辛口批評家と判断し購入したら、すごいおぞましい哲学者と分かるというのはいいのか悪いのか。