中公文庫2月刊 今邑彩 「裏窓」殺人事件 警視庁捜査一課・貴島柊志

主人公の警官の境遇、これは駄目でしょ、こういう身上だと警官になれません。バカでも警官になれるかもしれないが家族環境がメタメタだと落とされちゃいますって、いまじゃ清掃作業のパートさんでも危ないですよ。西山刑事は弟が殺人事件の被害者で、こんな事情も採用されないかもしれないな。
メインに据えた時間差トリックは悪いものではない。どちらかというといままで時間差を並列させる型でストーリーが続く作品ってあまり好きではなかった(「アヒルと鴨と…」とかその他いろいろ)けれど、この作品みたいに「Aの事件を隠ぺいするための時間差がBの事件を惹起さす」という発想は面白かった。
ただ、ホラー的な要素はどうみても不要だったし、西山刑事のナニも赤川次郎レベルの蛇足でいただけない。今話題の作者だそうだが前世紀91年にカッパブックスから上梓されたこの作品、「毒猿」も「私が殺した少女」も「帰りなん、いざ」も出ていたその時に、この文体このシチュエーションにこのバックグラウンドはやっぱり大いに疑問だ。事故で下半身不随の少女、暴行されかけた女子高生、アッシー君の輪禍に責任を感じる女子大生。も少し掘り下げた内面がみたかった。