新潮文庫08年2月刊 佐々木譲 制服捜査

このミス一位の「警官の血」に少し興味をもっていたしこの本の帯にちょっと魅せられたみたいで購入。第1話、第2話など好短篇だし、第4話「感知器」は好きな短編ではないがラストの1行が連作短篇ならではの“いい味”をだしている(この作品集ではその味をみれないが)。

長嶺は、もう一度微笑した。丸い顔が、いっそうひとなつこくなる。邪気のない印象となった。
周囲の者はたいがい、彼のこの笑顔と体型にだまされるのだ。

帯裏で予告されている単行本「暴風圏」では長嶺巡査部長はでるのかな。それはともかくラストの「仮装祭」で「作品全体を貫く不気味な真相」(解説村上貴史から)なんてことだがそんなものはありません。そのへんちょっと読者のわたしだが、まあやっぱ思い込みというのかもすこしまともなストーリーを自分勝手に想像していたようでだからちょっと興醒めだった。
もちろん元教育長の不義の子とか、防犯協会の暴走とかも悪いストーリーではないのだけれど、ただ第1話で山岸明子と田代敬子というふたりの女性の恨みや狼狽を描いていてそれは未決でというのはやっぱりいただけない。犯人の高校生は失血死しているとはいえラストの中編で連作全体に落とし前をつけなくてどうするんでしょう、2人に活躍してほしかった。
ま、なんにしろ佐々木譲の小説にちょっと期待したわたしがばかだった。「夜にその名を呼べば」という呆れた小説で見切ったはずだったのにね。中川酔漢前財務大臣の父親みたいな人物も登場する「愚か者の盟約」はでもカラスの死体とかが面白かったけど。「夜にその名を呼べば」でも、郵便局でのマル何とかだったか危険人物からの手紙を特定するとかそういうのが面白かったか、まあいいけど。
佐々木譲だけでなく横山秀夫今野敏などが書く警察小説を解説の村上貴史は高く評価しているけど、どうにも疑問だ。いつだか記したが現在は女系ミステリでなくてはいけない。そうでないなら男系ミステリの限界をみせるとか。高村薫の合田刑事はどうしてあんなに鋭利な頭脳のくせに心が弱いのか、大沢在昌の鮫島警部はどうしてあんなに孤独なのか、男系ミステリを書き続ける作家にはわからないのだろう。女系ミステリにうんざりした読者が大勢いるから、新たな警察小説作家が現れたのだろうがただのアンチテーゼだからものすごく底が浅い。マルティン・ベッグを目指すといって、男性の悲哀をあれだけ描いたベッグシリーズを本当にきちんと読んでいるのかな。
「夜にその名を呼べば」のおっかさんとか、「ネプチューンの迷宮」のフィリッピン人の大統領夫人とか女性とはいえマッチョだったしな。