集英社文庫 08年4月刊 小路幸也 東京バンドワゴン

東京バンドワゴン (集英社文庫)

東京バンドワゴン (集英社文庫)

帯に「中井美穂さん大絶賛『早くドラマにしてください』!!」と記してあるし跋の一行は「あの頃、たくさんの笑いと涙をお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ。」だったりと、まあつまり私は騙されたのか、わかっていてそれでも購入したのか、いまとなってはなんともいえないが、ひどくつまらない読書体験でした。
なにが嫌だって、語り手が最近死んだこの家のおばあさんってことで、そんな設定は度し難い。成仏できない魂ってのはそりゃあんたものすごい屈託やら煩悶やらその他「死んでも死にきれぬ」という理由がなくてはいけない。そうじゃなくて星新一「にぎやかな部屋」みたいな大層な数の霊魂の入り乱れみたいなら許すけどね。
というわけで、祖母が家庭の誰か(複数も可…というよりそのほうがいい)に間接的にでも命を奪われ、それを当人が納得していても(こんなホームドラマだから祖母の死でみなが幸福になっている)成仏できないというくらいの設定でないとな。殺人がなくてもいいけど屈折や軋轢や憎悪を内包した表面の屈託なさでなくては、ドラマって者は楽しめない。ただのアットホームを語るだけなら、神様の視点のほうがいいじゃないか。まあ、なににしろドラマとしての緊張感はまったくないし、それを売りにしているらしいから呆れるね。
第1話の百科事典を使うトリック、小学1年生じゃないならこれはアリかなとは思ったし、小学1年生女子が擦り寄ってくるじじいに恐怖を感じるという設定とするならもうすこし面白い展開ができたのではと思ってます。人情話に落としてはいけない。