乾くるみ 「イニシエーション・ラブ」読了

石丸さんというすてきな悪女が副主人公で出てくるという、そのことだけでも魅力的なドラマでした。小林信彦の唐獅子にカップリングされた短編「ジェリーズ(英語スペルがタイトルだったかも)」の主人公が石丸だったな。あれはモービーディックのイシマニエルのモジリだったか。
ほかにも石丸という姓のキャラ、小説で見かけたような記憶はあるような気がするが覚えていないものだな。つかこうへいのエッセイには石丸謙二郎が出てくるけどね。
石丸さんは魅力的な都会の女性で、田舎出の一人称主人公を誘惑・征服するまあ敵役なんだ。彼女に夢中の主人公も、きっとこの先遠からず彼女に飽きられ振られそうで可哀想ではあるけど、小説全体を読んでしまえば、主人公に同情もできないか。
トリックに関してはちょっとなんともいえませんね。トリックじゃないんだし。とはいえカバー裏に記された「必ず2回読みたくなる」という惹句は、処女(童貞)喪失シーンだけということになるわけだし、まあもちろん、そういう意味ではキャッチフレーズに「間違いはなかったなあ」ということになるでしょうか。

乾くるみという作家

昨年夏、光文社文庫「林真紅郎と五つの謎」を購入した。残念ながら最初の1作を読んだまま放り出す。
謎解き至上主義のミステリー作家がはまりやすい陥穽というのか、シェチュエィションや設定があまりに安易だったりで作品にのめりこめなかった。わざわざ<助けに行くぜ!ジュリエット>の歌詞まで載せたステージ描写なんだが、臨場感がちっとも伝わらず。
(たぶん熱気あふれた)舞台の余韻の残るホールで起こった事件の現場なのに、温度も振動も耳鳴りも、集まった女の子たちの汗の匂いも、なーんにも感じなかった。
だからってトリックだけの作品が嫌いだとはいわないよ。やっぱりティストなんだな。