集英社文庫 11年4月刊 篠田節子 アクアリウム

アクアリウム (集英社文庫)

アクアリウム (集英社文庫)

作家篠田節子さんに教えてあげたいのだが、男だったら性愛の限りをつくした後に長どす持って新幹線に乗ってテロルに出かけるものでしょ…って実相寺の「曼荼羅」かそりゃ、もちろん主人公正人は地底湖で古代イルカとまあ濃厚な逢瀬というか疑似セックスを重ねているわけで、テロルを叶えるだけの心の重さを持っちゃったことを疑いはせぬけれど、でも一般公務員が爆弾投げるほどの情念としてはまだ弱いんじゃないのか。
古代イルカとの情交のさなか主人公の脳内に溢れるイメージ、「聖域」で死者からのシグナルが幾度か提示され、ああ、最後にはこれって受け手が増幅させてるだけなんだなという種明かしみたいだったが、まあこちらもそれは同じで宇神という学者がきちんとしかるべき場所で種明かししているのは好感が持てるけど、やっぱりそれでも主人公がテロルにまで至る、ほんとうの心意気みたいなものまで小説からは汲み取れなかった。大衆小説なのだからそのへんもう少し丁寧な(澪への暴力か伊丹との和合か)結末がほしかった。
とはいえ、20年以上昔の小説とはちっとも思えない“読ませる力”の持主であることは十分感じられました。以前新潮文庫に収録されていた作品、まあいまの時代だとどれくらいの作家で全集だの著作集だの出してもらえるんだか分からない時代だし、実はもうすぐそこではWEB上に完ぺきなビブリオの時代となるんだろうけれど。