文藝春秋 2月刊 土屋賢二 あたらしい哲学入門 なぜ人間は八本足か?

あたらしい哲学入門―なぜ人間は八本足か?

あたらしい哲学入門―なぜ人間は八本足か?

哲学の入門書というカテゴリに関しては、わたしはけっこう読んでいます。永井均とか竹田青嗣とか紫苑ちゃんの冨田恭彦とかその他いろいろ。だからせめて“入門の達人”にくらいはなりたいものだがなかなかそうはいかないのが哲学ですものね。で、こちらの書物。読みやすさはたいしたもので、ほとんど立ち止まることなく読み終えてしまいました。それもまた問題のような気がするのだけれど。

ぼくの考え方は、アリストテレスとかウィトゲンシュタインといった大哲学者の考え方を基本にしています。そういう哲学者がこの問題を考えたら、こう解くだろうということを皆さんに僕なりのやり方で説明したいと思っています。
 1時限目 講義の方針 033

というわけで「語りえぬものについては、沈黙しなければいけない」というウィトゲンシュタインの名言(?)って、深遠で崇高な真理の闇とか謎とかを垣間見せてくれるものと思っていたのだが、そしたらなんのこともないツチヤ教授的に翻訳するならそれは「なぜ人間は八本足か?」ときた。

「なぜ」という疑問文を作るときには、「なぜ」の後に事実を表す文が来ないといけないという規則に従わなくてはいけないとぼくらは考えています。その規則に反しているから、疑問文として理解不能な、意味のないものになってしまうんです。
 2時限目 037

そうだね、8本足ではないわたしは沈黙しなければいけないよね。柏木達彦シリーズでもいろいろ脱力しているわたしですが、こちらもなんだかびっくりではある。

「どうすれば哲学の問題を解決できるかをこれから説明します。この方法は、基本的にはあらゆる哲学の問題を根本的に解決する方法です。どういう方法かというと、哲学の問題はどれも、問題として間違っているという解決です。こういっても不可解に思えるでしょうね。)」
  2時限目 問題が無意味になるとき 冒頭

これでは哲学は「間違った学問」とやっぱり読みこむ初学者は出るでしょ。一般教養のテキストとはいえ、そのへんけっこうラジカルで怖いところ。この本を読んでウィトゲンシュタインの哲学を理解した気分にはちっともならないのだが、もちろんそれはツチヤ教授も折り込みずみでしょうね。