角川ソフィア文庫1月刊 宮下規久朗 知っておきたい世界の名画

知っておきたい世界の名画 (角川ソフィア文庫)

知っておきたい世界の名画 (角川ソフィア文庫)

どうもこの、ソフィア文庫で“宇宙の謎”や“哲学の名言”など図解雑学系の新刊はどういうわけだか外れが多いな。このたびの“世界の名画”もナツメ社「不朽の名画を読み解く」が種本のよう。本家のほうは知らないがやっぱり画像がよくないと、どんな能書きもこちらに伝わらないですねえ。申し訳ないが著者の宮下准教授、「近代絵画」の小林秀雄の文章力には及ばないということね。

若し、モネが「夕陽の印象」の代わりに、夕日を浴びたある人の肖像を描いたらどういうことになったか、藁の束やルアンの寺院を、光や色の新しい研究に使う代わりに、例えば何故、細君の顔を使わなかったか。これは愚問であろうが、セザンヌの事を述べて来て、彼の肖像画のことに触れようとして、この愚問を提出してみるのも悪くあるまい。
 近代絵画 セザンヌより
セザンヌが、印象主義に不満を覚えたのは、視覚による感受性の偏愛にあった。と言うよりも、彼の考えによれば、画家が、主観を交えず、外物を静観するというのは正しい態度であろうが、それだからと言って、そういうときの画家の視覚とは、印象派が考える様に、単なる受動的な光線感受のメカニズムではないのである。
 同 ゴーガン

てな感じで、もう読むだけで楽しい名調子だしアフォリズムの宝庫だし、だから名画のお勉強って感じは全くないのだね。といっても、ソフィア文庫でいまさら小林秀雄ってわけにもいかないだろうけど。
たとえばわたしたちはよき美術を学ぶためには入門編として橋本治「ひらがな日本美術史」を持ち、探求編として椹木野衣「反アート入門」も知っている。残念だけれどこちらの書物、図解雑学の典型として提出したほうが楽しい書物になったことだと思う。
“機械の仕組み”とか“自動車の仕組み”のような体裁とチャートで“絵画鑑賞の仕組み”のような本のままで文庫にするほうがよかった。文庫ではでもそれはおさまらないかも。せっかくみつけた金鉱脈なのだから、もう少しソフィア文庫編集の皆さんに試行錯誤をしてほしいものです。