光文社5月刊 東直己 抹殺

抹殺 (光文社文庫)

抹殺 (光文社文庫)

“必殺”シリーズとか“スパイ大作戦”とかの系列。単純に巨悪だから狙われて一件落着という流れではない部分がモダンだし殺しの隠れ蓑としての障碍者という設定もドラマとして悪くはないと思う。2時間ドラマよりちょっと格は上かな。
福祉法人理事長の黒田龍犀が“必殺”の山村聰藤田まこと役か。車椅子スナイパーの宮崎一晃とダブル主役ではあるのだが、宮崎の出番は官能シーンを含めて疑問符が残る。いっそ元警官専門特養ホーム理事長の黒田が、入所者から抜擢して─みたいなほうが楽にまとまったのではと思う。車椅子スナイパーもそのうち何話目かで活躍みたいなほうが座りがよかったのでは。でもドラマとしては面白いが、どっこい小説としてはうんざりしちゃうのよ。

竹本とのケジメを、彼が安心するような形できちんと決めなかったのは失敗だったろうか。もしかすると、いろいろなことを気にして、不安な思いでいるのかもしれない。だとすると、あの男は本当にわたしのことを理解していない、という憮然とした思いを感じるが、それはそれとして、いくらかは危険だろうか、と警戒する気分にもなる。
  第3話 別れ話 より

少し長いセンテンスに流され浸るのは、気分的にわたしは嫌いではないのだがこちらの場合あまりに迷惑だな、夏木静子といい勝負か。この人の説明文の無駄な冗漫さはサービス精神が悪く出たというやつで、悪気はないが読むに堪えないと。まあ、小説はこんなものですが、どなたか技量のある方がすてきなドラマにならないものでしょうかと、あまりに作者に失礼か。
不治の病に冒された宮崎が、そうなっても「人殺し」を生業にする理由が短編集に記されていない。篤子という愛人をどうして手に入れたかも書かれていない。物語を紡ぐ力のない作家って何なんだろう。物語のカットバックがきっちり決まっているだけにとても情けない気持ちになる。