光文社文庫09年1月刊 上田早夕里 魚舟・獣舟

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

このアイディアはすてきだ、でも中途のSF解釈は下司だしストーリーはすかすかなのでね。

全長30メートルを超える巨大魚が背中に形成する外骨格─その空洞内部が海上民の居住空間となる。上甲板は、直射日光を利用するために人間が建て増す構造物だ。いうなれば海上民とは、自らが生む魚の身体に寄生する生き物なのだ。

そんな水子みたいなみずからの朋(魚型でうまれた双子の片割れ)を、知らずにいじめて逃してしまった美緒という女性が、その同胞の新たな進化(獣舟)を守るため戦う、という短篇なのだが、もうどう考えてもその不思議な舟での日常が見たくなるでしょ。両者のテレパスなんかとかもっと長いドラマがほしいよね、「アド・バード」みたいな。構想力の勝利なのにこんなにくやしいのは、構成力持たぬ作者を叱咤すべきかどうなのか逡巡するから。
その他の短篇も、アイディアだけで成立しているような印象。