磯崎憲一郎著 日本蒙昧前史 感想文

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傑作、楽しい読書で読み終えるのが寂しいつらいもっとおかわりという気持ちになった。高齢になってから長編一冊2日で読み終えるなんて久しぶりの体験です。

わたくし世代(団塊世代→プラス10年)にとって取り上げられてるイベント・イシューのすべてが既知であり、ただ作中の述懐などがフィクションか、巻末の資料の脚色程度なのかまでは分からない。プロローグでグリコ森永事件での江崎社長のサスペンスな心中にドキドキだがあっという間に暗転、日航ジャンボ平和相銀キャバレーハリウッドとずいずいドラマは進み登場人物たちはみな汗かき真面目に再現ドラマの主人公を律儀に演じては去り、でも福田赳夫とキャバレーホステスとがちょっとドラマを引き締める部分、ウッディアレンの映画みたいでとてもすてきだ。

その後の山下五つ子ちゃん、万博土地収用公務員の悲哀、そして万博目玉男、横井庄一さんと脈絡ないまま、とんちんかんに首傾げながら狂想に加担しふと溶暗してゆくさまを描く筆力を嬉し羨ましく感じつつ読み進んだ。

奥泉光の「東京自叙伝」は、毎度のことでローテ失敗作として残念な読書体験としか記憶に残ってないが、奥泉もできればこういうクロニクル譚を想起して書き始めたのかもしれない。こちらの小説「ゼウスガーデン」的な逞しく美しい小説の構築力をごく自然に保持していて、ありえないくらい不思議な求心力を保ちながらゆったりとディミニュエンドとなり、読者も脱力で嬉しかった。

とはいえ、こういうクロニクル絵巻を作者がこの後も描き続けたいと願っているならそれはとても嬉しいですが、どんなもんだろ。磯崎憲一郎をまったく知らずに読みはじめたのだが、読了後にWEB上で「電車道」という作品に関する問答をみつけた。

磯崎憲一郎・インタビュー 時代を超えて、繰り返されてきたこと 『電車道』刊行記念 | インタビュー | Book Bang -ブックバン-

そうなんだ「ゼウスガーデン興亡史」とどっちが凄いか、こんど読んでみようと思った。