光文社文庫11月刊 門井慶喜 おさがしの本は

おさがしの本は (光文社文庫)

おさがしの本は (光文社文庫)

いやあ凄い読書体験をした。この月、樋口明雄・花村萬月佐藤正午の文庫あったんだよね、まあ苦い経験は明日への糧には、この場合には絶対ならないんだよね、屍を乗り越えてゆくんだよね…。
ウーン…俺がそんなに狭量なパリサイ人ていうかリゴリストなのかい?第一編「図書館ではお静かに」ってあれ、大きく間違っているよね。依頼者は第一声で「シンリン太郎について調べたいんですけど」といい、書き写したレポート課題《林森太郎「日本文学史」を読み考えたところを記せ…》を探偵役に見せる。林森太郎を“シンリン太郎”と読み間違えた間抜けな女子大生依頼人を強調したのだろうが、レファランスは全くの疑いなしにステレオタイプに“シンリン太郎なら森鴎外”と結論付けてるけれど、もうその時点でミステリは破綻してるよ。鴎外の著作に「日本文学史」がないのなら、レファランスの役割は帰納的に「日本文学史」の著者中から「シンリン太郎」を捜すべきだろう。
いったいこの短編のどこをとっても主人公のレファランスを弁護する余地はなく、そのくせ“嘘の電話で依頼人を呼び出し”顛末を聞いたりして、ああ、情けない。こんな呆れた主人公なのに、なんだか一件落着みたいになっている。なってないでしょ、ユーモアも機智もウイットもここにはない。自己本位・自己中心・周囲の迷惑無関心な主人公が、依頼人の持ち込む疑問に対してとんちんかんで不自然な教導でより深い迷宮にさまよう…なんてそこまでゆくなら純文学だろ、おまえ純文学狙ってないだろ?
ま、第一編読んで呆れたままなので、それ以降は読んでませんが、こら!主人公。きちんとお前、依頼人に謝ってないじゃないか!