光文社文庫08年6月刊 結城昌治コレクション 白昼堂々

白昼堂々 (光文社文庫)

白昼堂々 (光文社文庫)

映画化された作品だそうだが、観ていません。レビューを見るとけっこういい映画みたいだ。

http://home.f05.itscom.net/kota2/jmov/2006_01/060126.html

「日のあたらない邦画劇場」というホームページより松竹映画「白昼堂々」の解説です。銀蔵が藤岡琢也、ワタ勝が渥美清か。40年前、映画のバイタリティが溢れていた頃。フランキー堺の悪徳坂下弁護士も観てみたい。
映画どころか小説も読んでなかった。同和関係とか自治体から抗議があったとか新聞ネタというかそういういろんな情報が邪魔して読む気になりそこねたというところか(2ちゃんでもそちら関係だと人権板で語られている)、こちら読む前に「軍旗はためく下に」読んじゃったしな。そういう意味では残念でしたね、泥棒部落云々というレッテルでいいあらわせるような作品ではまったくなかった。とはいえ筑豊ヨハネスブルグ説の2ちゃんスレッドなどに通じるプロローグ、警視庁のスリ係刑事が泥棒村に潜入するあたりなど、ひとつの戦後裏面史として同時代に子供だったわたし的にも感じ入る部分はある。水上生活者といっしょか。

http://tundere-force.tumblr.com/post/10813448/33-05-02-04-13-12-11-id-f3jnsaxl0

帯に曰く「陽気な泥棒集団の破天荒な活躍を描いたピカレスクロマンの傑作」。ちょっと違うか。ワタ勝率いる万引集団は生活かかってるしちっとも陽気じゃない。集団万引きは破天荒という言葉の対極というかオートマティックでモダンタイムスみたいな犯罪ではないか。
ユーモアのセンスは抜群だし登場人物への目配りもきちんとしている。刑事たちのチームワークも巧みに描かれていて群像小説としての魅力は大だな。神の視点がふわりと軽くカットバックも鮮やかだから読んでいて映像が浮かぶというのか、だからといって映画が傑作かは保証できないが。
梶山季之とか藤原審爾とかその他いろいろ、この当時の大衆小説がもう古臭くて読みにくくなっているが、軽やかなタッチで書かれたこちら、読んでいる最中に時代的な違和感を持つことはなかった。間接話法のような会話文(翻訳ものみたいだ)も魅力。リアリズムを浚いあげポップに仕上がり心地いい。アドバルーンに乗って千円札を撒き散らしながら刑務所に吹き飛ばされるというラストのあまりにあっけらかんとした爽快さ(能天気さといってもいい)が脱力でうれしい。
たった一つの難点は、東京と福岡の距離感というのか、万引集団は神出鬼没のようだけれど、その移動の退屈さ、無駄な時間みたいな部分がもうすこしほしかった。東海道新幹線はとっくに開通していた時代だけれどね。