中公文庫08年7月刊 チェ・ゲバラ 甲斐美都里訳 

新訳 ゲリラ戦争―キューバ革命軍の戦略・戦術 (中公文庫)

新訳 ゲリラ戦争―キューバ革命軍の戦略・戦術 (中公文庫)

新訳でゲバラ日記を出したりと中公文庫でゲバラ再評価みたいな雲行きでした。来年「CHE」という映画が公開だそうですが、そのせいか。いやいやだからってこんな革命教則本まで出すかな。
モーターサイクル・ダイアリーズ」って映画もあったし、ゲバラって名からイメージされるロマンだの空の青さだの美しい死などはわたしも多いに感じるものだが、だからってこの文庫本が売れるとは思えない。そんな売れそうもない書物が出版されるってことは、読売のなにか権力争いみたいなものを感じませんか?保守でありタカ派というか改憲&親米路線の読売が中公を傘下におさめ、その際の軋轢云々をわたしはビビオという白黒版のチラシに発見(誤解)したわけです。もちろん中公自体のカラーも左翼とか進歩派とはいえず、先の諍いは「売らんかな」の読売進駐軍vs.「良識」の中公被占領民だろうと思っていて、でもここで「ゲリラ戦争」だものな、こりゃ読売内部であぶりだされた新左翼が中公に飛ばされ、イタチのさいごっ屁だか社内ゲリラで稟議通しちゃったんじゃないでしょうか。ファノンやマルクーゼ、羽仁五郎吉本隆明など旧三一書房みたいな文庫ラインアップが今後刊行される予定だったりして。

前略…
人民の前衛としての自覚を持つゲリラ戦士は、望まれる改革の真の奉仕者として道徳的規範を示さねばならず、どのような状況においてもただ一度の行き過ぎや失策さえも避ける厳正な自己規制に加えて、困難な条件に強いられた克己心を持たねばならない。ゲリラ戦士は禁欲主義者であるべきだ。
…中略…
農民に対してはつねに技術面、経済面、精神面および文化面での支援をせねばならない。ゲリラ戦士はいうなれば、その地区に遣わされたある種の守護天使であり、貧困層を助けるが、富裕層への攻撃は戦争の第一段階では最小限に留めておく。しかし、戦争の拡大につれて矛盾も鮮明になってくる。当初は革命に同調的だった富裕層の多くが、正反対の立場につく時がやがて来る。そして、彼らは人民軍に対する戦闘の第一歩を踏み出す。その時こそ、ゲリラ戦士は人民の大儀の旗手となり、すべての背信に正義の鉄槌を下すのである。
…後略
 第2章 ゲリラ隊より 社会変革者としてのゲリラ戦士 68-69ページ

ま、もちろんプレジデントなんぞで「ゲバラに学ぶ経営戦略」などを読むことはできなくとも、実を感じる建設的でなおかつ懇切丁寧な書物でした。戦術などはともか人生訓としても充分読むことは可能。ただしわたしは七人の侍にも山村工作隊にも大地の牙にもなれない中高年なんだし安倍も福田も政権投げ出したとてクーデターも起きないこの国にゲリラ戦士は生まれないこともわかっている。新たなコンセプトによる革命の書が必要なのではなく、ゲリラがオタクに変貌し果てたこの30年ほどの軌跡をアウフヘーベンしてみせたなら、還元の方策も分かってこないか。