文藝春秋の新刊 2005・10 「巨峰」©大高郁子

巨峰は果物業界では最高の発明─農業部門ということとなると、コシヒカリも最近のとうもろこし(品種名不明)もジャガイモ(北アカリというのか)も、すてきな発明だけれど─です。
農業技師の研鑽の結果つくられたものだとするなら、その技師に文化勲章でも学士院賞でも、何でもさしあげるべきです─巨峰。
昨今では種無し巨峰も普通に普及しており、この際ブドウという1ジャンル中、最も完成された品種として誇るべき地位を、今後とも当分保つことでしょう─巨峰。
とはいえ、通年出回っていないという小さな瑕疵に関して、学士院賞をいただくべき技師を中心としたプロジェクトチームによって、近い未来には解消していることでしょうし、南半球で栽培し逆輸入すればいいだけのこと(もうやってるのかな)だから「巨峰が最高の発明品」であるというわたしの評価に揺るぎはない。
あまり果物に執着しないわたしです。ブドウに関しては種を出す作業があまり好きではなかったので、デラウェア?小さいタネナシブドウが好みでした。小学生時代からありましたねタネナシブドウ。マスカットとかキャンベルとか、まあその他店頭にならんでもあまり関心なかったわたし。でも、巨峰は美味かった。糖度が違った。皮に残るシロップも甘くていとおしい。見た目もいいよな、誇らしいというか弟にこんな子がいると自慢したく(なんで弟なんだ)なるだろう。
大高郁子の描く巨峰。肉眼だと皮の表面に薄く白く光線の加減で見えている、ちょっとうっとうしい部分が描かれてはおらず残念。生きている証みたいで、でも細胞が生きるということは老廃物や残渣を作り出す作業の最中なのだとこちらに知らせるもののようだが、なかなかイラストにまで描きにくい。
でも、巨峰の質量・たわわな重さ、ひしめく粒々たちの存在感が甘く素直に伝わってきてとても美味しそうでした。


※裏表紙「本の話」中、“文春新書はちょいリニュおやじ?”…というような惹句が。そうなのね、05年秋には“ちょいワル”とかいう言葉は普通だったと。