平山夢明短篇集「独白するユニバーサル横メルカトル」光文社より「Ωの聖餐」

独白するユニバーサル横メルカトル

「腐りかけの象がいた。部屋中に肉が充満したような巨体(体は爆発文字。身編に區)。ついているはずの鼻はなく、敷布のような耳もなかった。あるのは冗談のように生えた頭部の毛と泣きはらしたようなジクジクした眼、黴か苔で変色した皮膚だった。それは上半身が半分だけ起き上がった姿勢を取れるように造られた巨大なベッドの上に横たわっていた。雑巾のように変色したシーツも含め、全身がべとべと濡れ光っていた。どう贔屓目にみても、皮を引き裂かれた象か巨大な胎児が関の山だった。
「オメガだ」
ハツは涙目になりながら俺に呟いた。
…(後略)…
「ようこそ…わが宮殿へ」
  「Ωの聖餐」よりちょこっと抜粋

オメガの登場シーンです。いやはやすごい小説が現れたものだ。食人小説「ひかりごけ」やら「野火」やらの登場から50数年。人体バラバラスラップスティック筒井康隆「トラブル」から30余年。ポストモダンってのは哲学用語じゃないんだぜと冷水を浴びせられた。そうなんだ、わたしたちがいま歩いている現在からほんのちょっと先の未来をポストモダンと仮称しているだけのことと、哄笑で教えてくれるこれは啓蒙小説なのだ。
苦いメルヘンとしてのストーリーだけでもけっこう高得点な作品なのに、それでは満足できない作者の“自己満足・自己充足”のためだけの主張がドラッグクインの派手さ下品さで生真面目に読者へと真正面から迫ってきて、圧倒的な不快がはじける。とはいえ、「このミス」第1位なのよね、これ。

http://konomys.jp/index.html

どこがミステリなのかという「…横メルカトル」短編集ですが、そういえばわたし「このミス」で「笑う山崎」教えてもらいはまっちゃったもので、これはこれでいいでしょう。平山夢明というカルトでマイナーな作家(もちろんわたしもそれ以前知らなかった)を世に押し出すきっかけとなるだろうから、読書界としても“来シーズンへの期待がいやます”というところか。