創元SF文庫 11年11月刊 水見稜 マインド・イーター[完全版]

マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫) (創元SF文庫)

マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫) (創元SF文庫)

文庫帯「日本SFが成し遂げた最高の達成by飛浩隆」と記してあって、ああそういう惹句に騙されるわたしってTVショッピングとかで痛い出費をする主婦などと同じ間抜けでしょう。
すまないことだが第一編の「野生の夢」だけ読んで、こんなのにひっかかった自分があまりに情けなくて読書終了しました。あれは凄いよ、死んだはずの父親が粉末状で生きているというのはまあびっくりなんだが、だったら他の犠牲者もそんなふうに粉末状で生きればよっぽど楽しいかな、死んだハンターの奥さんが化け物になるあたりを「小松左京の『ゴルディアスの結び目』だ!」と解説でびっくりしていて、まあそうですなわたしもちょっと震えましたよ、変身シーンには。
まあでもさ“マインドイーター”ってのは前宇宙が大収縮(ビッグ・クランチ)が未消化に終わった残渣というか次の(現在も続いている)ビッグバンのエネルギーの主が憎悪を撒き散らしているという大風呂敷と、ハンターを粉末にするという宇宙的悪意はそれなり合致するのだが、そんなビッグ・クランチの残滓が喋るかよ?喋っちゃ駄目だろともう後半でへなへな。

「言語を操ることを能力と呼ぶのはおまえたちの都合によるものだ。おまえたちは、不格好で醜い言語というものを使わなければ、他個体が持っている情報を伝達できない」

「我々の記憶というのは、物理的に出現している時点に、全ての世代からインテグレートされたものだ。それは我々の結晶形態として取りこまれている。我々は、過去と未来の存在記憶を体現しているのだ」

「我々は…前世においては…生物だった気がするのだ…」

と、かつての宇宙の残骸がこんなふうに喋るんだそうで、ああびっくりとなっちゃう最低の会話シーンでした。「ナントカ魔法使いと…」あらあら、タイトルも忘れたがいじめられっ子が魔法使いの見習いみたいになっちゃうというファンタジーで、小さいブラックホールがおしゃべりするっていう奴があって、まあそんなコメディリリーフのミニブラックホールも実は、数百億の生命体を呑み込んだ宇宙の残滓かもしれないし、でもやっぱり喜劇の人だよね。えと、こういう作者に「永劫回帰ってなんでしょう?」と問うてもまあ無駄なことなんでしょう、創元SF文庫で日本SFの秀作発掘をしてくれていてありがとう、鏡明「不確定世界の探偵物語」は読めてよかった、山野浩一は微笑で見逃した、次はなんだろ「悪夢狩り」かな「俺はロンメルだ」かな…。すてきな企画ではあるけれどまあこのたびは本家小松左京のコールド勝ちということでいいんでしょ。