ハヤカワ文庫JA1月刊 矢作俊彦 司城志朗 犬なら普通のこと

犬なら普通のこと (ハヤカワ文庫JA)

犬なら普通のこと (ハヤカワ文庫JA)

うだつが上がらずもう先の見えた中年ヤクザが組織の大金を強奪し逃亡を企て、でも重大な齟齬が発生し金も奪えず逃亡もできず非常に宙ぶらりんな状態のまま、でもいまさら強奪をあきらめるわけにもいかず足掻き、またしくじり無駄な殺人を繰り返し、自滅してゆく“まあよくある”ストーリーなんだが主役格の登場人物たちの描き方がまあうまい、主人公の暴力団末端幹部ヨシミ、その相棒で中国残留孤児二世のチンピラ彬、ヨシミの女房で全財産400万円奪われた森、公安の手先にされた人生を呪い彬と帯同する早枝子と役者はそろった。ちょっとばかりヨシミの所属する組織の幹部どもが間抜けなのが痛いし、えとオチというべきか副社長の柴田の絵図っていう収斂の仕方は安易で好かない。とはいえ、バイクでの襲撃シーンや消音器が暴発するドッキリなどバイオレンスはすてきだし、さすが沖縄の娼婦だルートビア(ものすごくまずい)を飲んだり、屑なたかり警官もいい味出したりとクライムノベルの魅力は充分感じました。これくらいの水準のをパルプマガジンというと変なジャンル分けだが大衆小説の水準点として普通に読みたいものです。