文春文庫7・8月新刊 徳岡邦夫 写真・山口規子 嵐山吉兆 夏の食卓 秋の食卓

嵐山吉兆 夏の食卓 (文春文庫)

嵐山吉兆 夏の食卓 (文春文庫)

嵐山吉兆 秋の食卓 (文春文庫)

嵐山吉兆 秋の食卓 (文春文庫)

07年バジリコから出版された料理書の文庫化らしい。文庫としてあらためて表したことは大いに評価できるが本の体裁にかんしては評価を躊躇する。たとえば以下の小文。

僕が東京の吉兆で修行していた24歳ころのことでした。祖父の湯木貞一が「お腹減ったなあ。にゅうめんでも作ってくれ」と。その時何故か僕一人しかいなかったんです。料理は下拵え、焼き方、煮方など分業ですが、すべて一人で調えました。後片づけをしながら、祖父の様子を見ていると、つるつるっと麺を、すすっ、すすっと汁をすって。メガネが鼻の真ん中あたりまでずれて、裸眼で僕の顔を見てひと言、「うまいなあ」。すごくうれしかったですね。
 夏の食卓 定番の夏 そうめん にゅうめんより

うまいはずで、作り方を読む出し汁(出汁と記してある)に“下煮用”と“仕上げ用”と別なんだそうです。そんなそうめん(だろうが麺類)食べたことないし、でもその方がうまいだろうし。

【作り方】
 そうめんの下煮用出汁は、出汁75、みりん10、しょうゆ4、塩少々の割合。仕上げ用は、一番出汁に塩としょうゆを好みで、すっきり味に。
 焼き穴子は串を打ち、皮のみ炭火でさっと焼き、粉山椒を。串を抜き約8ミリに切ります。
 しょうがは千切りに。
 そうめんはアルデンテに茹で、洗ってから、下煮の出し汁で3〜5分炊きます。
 椀にそうめんを入れ、あなごをのせ、千切りしょうがを盛り、仕上げ用の出汁を静かに注ぎます。

とはいえ祖父、湯木貞一とくるわけだ。編集者という職業の人だったら、もうこれ突っ込みたくて堪らないでしょ。湯木貞一の日常所作とか、あと新人育成の眼力みたいなものだろうか。「吉兆味ばなし」全4巻は文庫になってないのか。辻嘉一は中公文庫に収められているはずだが。まあ、読み物としてすてきでなおかつ料理書としても一流だった「…味ばなし」の湯木貞一がもうその影の向こうで微笑んでメガネ垂らして、なおかつうなずいているんじゃないの。里見真三のDNAは文春から滅びて消えたのかと、何だか残念だな。
あと、残念なのは写真があまり美味そうじゃないあたり。B級グルメ文庫の飯窪敏彦ほか多くのカメラマンが撮った多くの食べ物写真、みなうま味を充分含有していたと思ったけれど。