文藝春秋09年4月刊 乙川優三郎 闇の華たち

闇の華たち

闇の華たち

短編に「冬の華」というタイトル、なんだかちょっとな。78年の映画だ、池上季美子だ、三浦洋一だ、小林亜星も殺される役で出ていたし外車のディーラーのいじめっぷりなどよかったし…ってなわけでまだこなれきれていない題名ではなかったでしょうかと倉本聰になりかわって苦言を呈させていただきますよ、50代だぞわたしは…って著者も昭和28年生まれだ、同世代じゃん、気にしなかったかな。
6編の短編小説、どれもみな惜しいな今一つだなって出来。「悪名」ってこれ、安易なおとぎ噺だし「面影」は隣藩は敵みたいな雰囲気はいいけれど水戸のドーダ理論を生かして(?)ないし「笹の雪」は現代小説のほうが面白いだろうし。「冬の華」は「立花登」の中高年となった後日譚みたいだし。
「花映る」にすてきな藤沢周平を感じたけれど、すこしストーリーが安易でないか。夫の仇が目の前で死んだのだから、寡婦に精気が戻っておかしくはないが、それに恋慕が続くだろうか。亡き友が愛した女性という設定とはいえ、登場シーンの彼女の放心ぶりなどからは、ラストのデートの約束は導かれないだろうとわたしは素朴な読者です。まあぼくらには藤沢周平がいて、藤沢にも不出来な短編もあり、連作に甘える設定に失笑させられることもままあり、とはいえストーリーテリングの妙は乙川より何ストロークか先を行っている。