60th 発見。角川文庫 創刊60周年記念企画

昨年4月から今年3月まで記念企画として「今月の角川文庫編集長」が就任し、新刊案内チラシ、書店で配られる小冊子として紹介され販促に貢献した。WEBやカドカワの雑誌などでも紹介された。

http://adto.jp/kadokawa/view/s.php?a=371

こうして1年間一つのアイディアで小冊子を配布し続けた熱意は、書店好きのわたしとしては好もしいかぎりです。
各号、内容レイアウトはほぼ同じ。各編集長が角川文庫に限るという縛りで6冊の愛読書を選び、巻頭インタビューでその選考理由を語り、まあその語りが各編集長の読書遍歴になっている…場合もあったりなかったり。中央で選ばれた6冊が紹介され(絶版・品切れだった作品も多かっただろう、それだけでもいい仕事でしたね)冊子後半は編集長の営業、Q&A、イチオシ、プレゼントという編集内容。読ませる中身のひともいれば、非常に他人事めいているのが如実にわかる方もおられて、まあそれもいいか。
こういう非売品の小冊子ってこの先、手に入れたいと思っても、なかなか入手不可能でしょうし、そんなものがあったことさえ分からぬままということも多いだろう。わたしも大高郁子さん表紙絵の朝日新聞PR誌「明日の風」だけがほしいんだけどまあ、近所に朝日新聞取っている人がいないのであきらめています。それはともかく冊子の紹介。

08年4月 角川文庫は、愛。 森絵都
5月 角川文庫は、必死だ! 東野圭吾
6月 角川文庫は、悪である。 京極夏彦
7月 角川文庫は、青春だ! 重松清

8月 角川文庫は、いつも夏だ。 恩田陸
9月 角川文庫は、とんがっている 金城一紀
10月 角川文庫は、愉快だ! 山田悠介
11月 かどかわぶんこは、便利です。佐藤優

12月 角川文庫は、燃料だ。 森見登美彦
09年 1月 角川文庫は、衝撃だ。あさのあつこ
2月 角川文庫は、初恋。 島本理生
3月 角川文庫は、「紙のゴハン」ですョ。桜庭一樹

現在の文庫事情は、まあちょっとわたしなんぞのウォッチャーでも「近寄りたくない」くらいな出版状況なわけで、だから絶版とかでなくても書店の棚からこぼれ落ちる古典も多いでしょうし、こういう著名人のマイ・ベストという形ででも、名作の掘り起こし作業は各文庫出版社としても大いにやっていただきたいですね─創元文庫50周年でも同様の試みが。わたしに関しては棚より平台の新刊ばかりに目をやっていて申し訳ないですが。阿佐田哲也、都築道夫、大藪春彦半村良など明かに絶版・品切れ本(ブックオフにはありそうだが)などもこうしたかたちで増刷され、新たな読者を少しでも得たのなら何よりです。
質問箱コーナーで、木で鼻を括ったような森絵都アンサーもあるけど、けっこうマジメでリアルな回答があったりもして。

Q.いつもご著書の厚さに圧倒されますが、執筆中、最初に書いていたことを後半で忘れてしまったという経験はないんでしょうか。
A.それは無いですね。書き終わったら全部忘れますが。大体、僕の場合は小説の設計図が簡単なんですよ。4コマ漫画みたいな設計図なので忘れようがないんです。by京極夏彦
Q.自身の恐怖体験はありますか?
A.自分ちのマンションの近くにおじさんが倒れてて、友達と調べに行ったら、顔がぼこぼこになってて。だから慌てて警察呼んで、警官が「お父さん、お父さん」って呼んで起こしてみたら、じつはおばさんだったこと。しかも、ただ泥酔で転んだだけ、というオチつきでした。by山田悠介
Q.小説を書き始めたのは何歳の時ですか?
A.小学校3年生の時です。題名は「マドレーヌの冒険」。母親が作ったマドレーヌに手足が生えて冒険していくというお話。それを母親の誕生日かクリスマスにプレゼントしました。by森見登美彦
Q.桜庭さんのように、大人になっても10代の純粋な悩みなどを覚えておける秘訣は何ですか?
A.母から「おまえは蛇のように執念深い子だねぇ」とあきれられるほど、子供のころのことを覚えてるので、つまり、なんでしょう…蛇のように執念深い子でいること?by桜庭一樹

何ヶ月か前にWEBちょっくらぶだったか、「あなたにとってのおすすめ角川文庫」みたいなアンケートがあってわたしもその気になって、手許にあるやつから3冊選んでみた。
第1位 内藤礼 「世界によってみられた夢」
第2位 高田文夫 景山民夫 民夫くんと文雄くん あのころ君はバカだった
第3位 寺山修司 青春歌集
手許にある文庫から選んだらこうなった…というか、手許に残る角川文庫はみなそうとうぐっと来たやつのみのラインアップではあったりもするんだけれどね。どうですか、ひどい選択と顔をしかめられそうだな。寺山歌集以外は絶版でしょうね。内藤礼の文庫って何で出したんだろうね。バブルの頃って呆れるようなことがままあったという好例ではある。作家編集長のように営業に貢献しなきゃってなったら1位と2位は外れるかな、いや内藤礼は高値をつければいいし、「あのころ君はバカだった」も時代の鏡ではあるし、まあいいじゃないですか。でも、なんだかこうなると昔の各社文庫出版目録がみたくなるね。

※追記、内藤礼「世界によってみられた夢」は99年にちくま文庫から復刊されてました。角川、ちくまともぜっぱんのようだけれど。