新潮文庫 平成20年2月刊 北森鴻 写楽・考

写楽・考―蓮丈那智フィールドファイル〈3〉 (新潮文庫)

写楽・考―蓮丈那智フィールドファイル〈3〉 (新潮文庫)

蓮杖那智シリーズはじめて読みました。「憑代忌」読み終えても探偵役の蓮杖那智が女性だと気づかなかったってのは、どういうことだ。
大層美人だがわがまま傲慢な気鋭の人類学者っていう設定やプロフィールはきちんと以前の連作にあったのだろうが、それにしてもいろんな予備知識なしではどうにもそこまで読みきれないなあ。
表題作の「写楽・考」。フェルメールについてはわたしもあまり知らないので、Wikiで知識を得ましょう。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E4%BD%9C%E5%93%81

疑問作も含めた現存するフェルメールの作品はそちらにある37点だけだそうですが、そんなすごいものなのかな。ま、フェルメールを江戸時代の四国に持ってきたという着想はとてもいいと思うが、だとするとタイトルは何なのさ。
そもそも人類学にせよ民俗学でもおなじで、気鋭の学者が颯爽と理論を開陳し世間の常識を代えてゆくなんていうような学問とは思えないのだがって、それはわたしの偏見か。吉本隆明の「共同幻想論」や山口昌男の「トリックスター」があまた人類学者たちにセンセーションを与えたなんてことはなかっただろう。
もちろんわたしたちはアカデミックな考古学者たちのおぞましいほどの低能さを高森遺跡事件で知ってしまったので、まあ、こんな小説ででも、主人公たちの居場所としての大学という場を尊重はするが、でもミステリの合間に繰り広げられる人類学・民俗学のフィールドワーク、そこから啓かれた新理論なんて、いずれにしても読者には邪魔かもねというくらいの認識でした。
連作小説集として、ここには読者を想定した大事な何かが決定的に不足している。