中公文庫 糸井重里 経験を盗め ─奥の深い生活・趣味編

経験を盗め―奥の深い生活・趣味編 (中公文庫)

経験を盗め―奥の深い生活・趣味編 (中公文庫)



文春文庫で現在は絶版かもしれないが小林秀雄の対談集。その中で宮大工みたいな人に小林がインタビューしているみたいなのがあって、なんだかそんなの小林秀雄じゃなくてもよさそうなのに…と、首をかしげたことがある。とはいえ河上徹太郎や今日出実や、お仲間同士が集まってぺちゃぺちゃ喋っていればいいというものでもないけれど。こちらの文庫、2人のゲストを招き、ホストがお題を振っての“鼎談”と“インタビがュー”の中間くらいの立ち位置なのか─いや、もっと本当は糸井さんの作品にしたほうがよかったのではないかと、悔やまれます。散漫でタイトルとは裏腹な“自慢話”の場にしかなっていません。まあ、ともかく名言集をいくつか。

川上弘美 見る夢ですごく嬉しいパターンが私にはふたつあって、ひとつは地面を掘ると十円や百円玉がざくざく出てくる夢(笑)。もうひとつは、草むらに入ると大きなイナゴがいっぱいいて、つかまえ放題の夢。
      虫は好きですか 

橋本治 でね、女は男と結婚するんじゃないんだよ。“自分の結婚”としか結婚しない。男は女と結婚するから、そのうち自分がなくなっていく。一方で女は“自分の結婚”と結婚しているから、どんどん自己完結していってさ。そのわりにはおもしろいことないわね、ってなる。
        独身上手と結婚上手の間で

山極寿一 みなさん、よく誤解していますが、餌をやればサルもイヌのように喜ぶと思ってますね。そうじゃない。サルは餌をもらってもぜんぜん喜ばない。
糸井重里あらっ!
山極恩義を感じると思うのは人間的な考え方で、実は違う。サルにとって、相手の持っているものは自分のもの。ただ、自分よりも強いやつがそこにいたら、絶対に自分のものにはできないんです。
       サルを知る

ま、こんなものかしら。鼎談という形式はわりと難しいもので、片方のゲストがホストを無視して仕切りだすみたいなことも起るし、わりとゲスト同士でいい関係にもなりにくそうだ。ついでにいってしまうと、なかなか経験は盗めそうにはない読書体験でした。