角川文庫11月刊 矢作俊彦 ロング・グッドバイ THE WRONG GOODBYE

THE WRONG GOODBYE―ロング・グッドバイ (角川文庫)

THE WRONG GOODBYE―ロング・グッドバイ (角川文庫)

このミス4位。首位であった「生首に聞いてみろ」(先日のダイアリでひどくくさした)より高得点であるべき作品だが、ミステリとしては弱すぎるのだろうか。ビリー・ルーが平岡玲子の息子であることは、まあわたしでも早い段階で分かるしその後の展開も予想どおりに展開するわけで、だからあとは作者の名人芸、ハードボイルド節の“聞かせどころ”を堪能するのが読書の喜びみたいになっちゃうね、だからそこがミステリ上の弱点か。あと、読み終えて「よかったなあ」と余韻に浸りつつ不満が出てくるというか(わたしはそういう状況が好きだけど)そんな読書体験ではあった。テリーの従軍体験やベトナム戦争中の唾棄すべき行為みたいなもの、もうすこし知りたかったかな。
テリー・レイノルズほどかっこよくはないビリー・ルーの登場シーンで、もうこれはハードボイルドのオマージュというよりも、法事の過去帳めいてというか故人をしのぶ会というか、そういう物語の残滓しか提出できないいまの時代を苦く無粋に、でも読みやすくていねいに、著者は表し奏でる。
本編どおりにテリーの逃走に手を貸した主人公は、でもあちらと違って官僚主義に体よくあしらわれ図書館準備室に飛ばされる。そのへんの仕事環境も現代の悲劇ではあるよなあ。
海鈴─アイリーンというバイオリニストがいい女に描かれすぎているというか、類型的…アハハ、新しい時代のハードボイルドじゃないっすね。とはいえ細部までしっかり構築されたすてきなストーリーを堪能できた─というのはやはりほめことばになってないのかなあ。
由・ヤマト・佐藤などの脇役。フランス人神父、安部譲二とは違うが元やくざのプロデューサーその他チョイ役まできちんと仕事しているなど読みどころも満載。主人公は警官でなくなるようなので、次回は私立探偵としてオマージュ作品に参加してほしいです。