中公文庫 11年8月刊 保坂和志 小説の誕生

小説の誕生 (中公文庫)

小説の誕生 (中公文庫)

非常に散漫な読書体験。もちろんそれは著者の悪意ではなく(小島信夫関連は著者の無意識の悪意かもしれぬが)でも書きたいことをうまく書けず、どうしてもこうするしかなかったみたいな、思考の右往左往だけを膨大な引用で煙に巻いているだけみたいに感じられ、経験値が上がらないぞというか思索の成長みたいなものがなかなか見えないし、あとパソコン壊れて、サポセン相手にクレーマーになっちゃうあたり、過去にこの人西武時代の話で「クレーマーなんぞ無視するしかない」といってなかったか。
先日わたしのブログで「膨張宇宙が収縮しないと決まったなら“永劫回帰”ってのが物理的になくなっちゃった」らしいと記したけれど、どうも保坂氏の考える“永劫回帰”ってのは輪廻転生の強大なものみたいだし、荒川修作の“宿命反転”に関しても「死んだら周囲の自然に還る」みたいな素朴さで捉えているみたいだし、どうにも著者の一生懸命さの空回りの軌跡みたいで、それを読者が喜べるかどうかだね、文学理論としてはほとんど無意味みたいだと思います。いや、でも勉強したあとのチンパンジーが解放されて、広い檻の中を両手両足見事に使い野生に跳ねまわる姿に関し…あれ?どこにあるんだ、けっこう厚い本なので探せず困った。…このテキスト自体が「評論でなく小説」であることのマイナス面がでていた。
とはいえ、たいそうな引用が退屈な以外は、ある種のハードなエッセイというか知的冒険の営みとしてなら、とても楽しい読書でした。