角川ソフィア文庫10月刊 富増章成 哲学者の言葉 いま必要な60の知恵

奥付 本書は2008年8月、洋泉社より刊行された単行本「図解 名言で学ぶ!哲学入門」を改題の上、文庫化したものです。
「図解××」といえばナツメ社の「図解雑学シリーズ」を思い出します、「自動車のしくみ」とかその他、玉石混交は承知の上だがいろいろ図書館で借りて斜め読みさせてもらった。書肆として必然だったのか、自然科学テーマから外れ社会科学へと触手を広げ出してからはちょっと警戒しましたけれど、基礎教養を身につけるには21世紀だもの、岩波新書よりこちらでしょうか…と思う間もなくネットにしてやられちゃったけど。

http://www.natsume.co.jp//book/index.php?action=category&id=181

こちらの種本は洋泉社で、ナツメ社とは違うんだろう。でもなんとなくタイトルだけでこちら「「図解 名言で学ぶ!哲学入門」も似たような啓蒙書かと思ったんだけれど、読後の感想はだるいです。著者・編者がこのテキストで哲学の基礎だか入門を学べると本気で考えてるとは思えないなあ。岩波の哲学講座の入門パンフレットの閾をでていないし、ここから何かが始まる気配はちっともしない。
ソフィア文庫では冨田恭彦の「柏木達彦シリーズ」が出ていて、超入門をいうのなら柏木先生のレベルで勝負してくださいとお願いしたくなる。

トマス・アクィナス(1225〜1274)
…それ自体によって必然的であるような何者か(神)が存在しなければならない」

ま、これが哲学の主流─第一の動者の存在をかたるわけで、結局そこから始まる哲学の旅に関しては日本人ってほとんど何も学べないじゃないですか。では続いて柏木先生。

「でね、特権的な知識を得たい、とか、特権的な知識を得た、とか、人は思うことがありますよね。そんなものがあれば、あれこれ悩まなくてすみそうです。でも、結局のところ私たちは、そんなものを得るのではなくて、こまごまとした、さまざまな、知識とかもっともらしい見解とかを頼りとして、個々の問題を解決するよう努力するしかないようです。」
「ああ、それも分かります」
「そしたら、なんてことはない。歴史を見ると、さまざまな人が、さまざまな試みの末に、これまでだれも考えなかった考え、発想う、ものの見方に思い至りました。そうして人間は歩んできたんです。その歩みは、けっして全面的にバラ色というわけではありません。今だって、解決しなければならない問題はたくさんありますしね。だけど、きっと何とかなると思って、みんなで頑張っていこう。ローティが薦めるのは、こうした前向きな態度です。」
「ああ、だから、これしか許されるべきではないといった大掛かりな規制に対して、ローティは批判的なんですね。なにか特権的な、絶対的な知識を得て、それに基づいて私たちの知的営みを規制しようとする、そういう人間の動きに対して、ローティは警告を発してきたということですね?」
 冨田恭彦 科学哲学者柏木達彦の哲学革命講義 p267 13 ローティ的なものから

哲学史の主要な議論─おいしいところをダイナミックに伝えようとした「哲学者の言葉」だったのだろうが、副題の「いま必要な知恵」が文庫化する際にも全く欠落したままだったということでしょうか。