集英社文庫3月刊 小川洋子 科学の扉をノックする

科学の扉をノックする (集英社文庫)

科学の扉をノックする (集英社文庫)

子どものころから、ねばねばするものが好きだった。雌しべの柱頭、雨上がりの木陰に出現する茸、出汁を取ったあとの昆布、洗濯糊、蛙の卵…等などを見かけると、素通りできず、つい手をのばして、ねばねば加減を確かめずにはいられなかった。その感触はどこかしら怪しげでただならぬ雰囲気を漂わせていた。気色がいいものではないのに、魔法のガスを吸わされたようにふらふらと引き寄せられ、いつの間にかうっとりしている。
…後略
 5章 人間味あふれる愛すべき生物、粘菌 冒頭

だそうです。女ってすごいです、俺そういうの大嫌いなんだよ(納豆やとろろ芋食べます、でも手で触りたくはない)、でも小川洋子ってあまりそういう粘膜粘液関連の小説書いてないじゃん、「妊娠カレンダー」なんて性への違和感拒否感だけの小説じゃん、まあいいか、粘液好きが書く粘膜関連描写が希薄な小説ということで。
博士の愛した…の人だからまあ、科学者の態度というか情熱みたいなものをみつけるのはうまいのでしょうか、─でもないか、啓蒙書ですものね批判的だったり、研究者の偏愛とか狂気みたいなものはあまり書かれていない。鉱物科学研究所の建物が普通のアパートの中にある…くらいか、ヘンテコを記しているあたりは。
全体にもうひとつ迫ってくるルポにはなっていなかったように思う。矢作俊彦がスプリングエイトを紹介する時、クレージーキャッツの“ひと言文句を言う前に、あなたの息子を信じなさい”をブンと叩きつけながら日本の未来を偽悪的に肯定していた。そういう荒業を小川洋子に期待しても仕方ないんだけれどさ。とはいえ楽しい読書ではありましたけど。