新潮文庫 12月刊 安住洋子 日無坂

日無坂 (新潮文庫)

日無坂 (新潮文庫)

その、なんというのか、読み易かったとかでくくるしかないのか。ちょっとドラマとしてはマヌケではないのか。何だか変に近代も入っていて時代ものとして読み終えたような気がしない。まあけっこう最近の時代ドラマを馬鹿にしているわたしなのだが、こんな風にきちんと書かれるとやはり「戦前とかの物語でどこがいけないの?」と、くさしを入れたくなる。
池波正太郎はきちんと近世を描いていたよ。それって戦前の貧困や暗さを事実として知っていたから。だから戦後の情けなさを知っていてようやく戦前程度を敷衍できるんじゃないのか。伊佐次があちこちで「おとっつあん」と呼ぶのも邪魔だな。そういう場所は近代以降の文章術で読みやすくしてほしかった。
もちろん、こちら小説として悪いとは思わないし、たとえば岡っ引の友五郎と博徒伊佐次のシリーズだって、できないわけではない。ないんだけどさ、少しつらいですね。