ちくま文庫8月新刊 夏井いつき 絶滅寸前季語辞典

絶滅寸前季語辞典 (ちくま文庫)

絶滅寸前季語辞典 (ちくま文庫)

数多くの絶滅季語の中でもお笑いは七十二候。最初に出てくるそれで編者は唖然としつつふるる勇猛心を湧き起こす。

魚氷に上るうおひにのぼる◆初春◆時候

七十二候の一つ。旧暦2月14日から18日ごろにあたる。暖かくなるにつれ、河川や湖沼の氷が割れるようになり、その氷の割れ目から魚が跳ね上がる、の意



中国の暦を基とした七十二候の季語は、吟行用のハンディな歳時記からはすでに抹殺されている。もっともこんなのまで載せていたら、ハンディになれるはずはないのだから当然といえば当然の話だが、まあいずれにしろ、この手の季語は音数が多く、現実味にも欠けるので詠みにくいことも確か。同じ系統の春の季語に「田鼠化してウズラ(如の下に鳥)となる」なんてのもあるが、デンソカシテウズラトナルとくりゃあ、これですでに12音。残り5音でどう勝負しろとしろってんだィ!と啖呵の一つも切りたくなる。
が、しかししかし、こんな悪条件が揃っているにもかかわらず、この手の季語が延々と今日まで生き残りしかもそれなりの例句にことかかないないのは、悪条件をこそ面白がる俳人たちの、大いなるヘソ曲がりのおかげかもしれない。

  老酒や魚氷に上る頃の星  夏井いつき

まあわたしも全く知らなかった七十二候です。WEB上で日付とともに出ていたページは以下に。

http://www.nnh.to/yomikata/72kou.html

わたしとほぼ同世代の編者なのですが、お互い育った地域や環境などのせいで単語や習俗、知っていたり知らなかったり、まあ昭和れとろブームと重なる部分もあったりはしても、夏井さんあまりそういうサービス精神はないようで、そこには好感が持てるような、いやただお互い田舎者のせいなのかとも思う。
夏井さんのお祖父さんは特定郵便局長で豪放磊落な方、それを語る彼女は楽しげだし、でも妹を語ればけっこうねじくれてるし、まあ読み物としてもうんちく雑学書としてもそこそこ及第点と思います。乗っかってる俳句がいいのかは分からない。著名人俳号のパロディな絶滅委メンバーたちの滑稽俳諧などで結構笑うことはできました。続編もあるそうなのでまあぜひ見てみたいものです。