文春文庫4月新刊 中原昌也 名もなき孤児たちの墓 

名もなき孤児たちの墓 (文春文庫)

名もなき孤児たちの墓 (文春文庫)

暴力温泉芸者」っていうネーミングだけで痺れてしまう石丸ですが、一昨年対談集の「映画の頭脳破壊」ではあまりびっくりしないというか普通の人で鈴木則文をヘンにヨイショしたりとんちんかんな礼讃だったりで、読んでて憮然とした。ヴゥーヴゥー呻いてるノイズ音楽も大変そうだが、やっぱり好きなのは鋭角で傍若無人な短編小説ですね。
「子猫が読む…」が大好きなんだが段ボール箱ひっくり返して出てこない。グレイス・ベイリーの文体(春樹さんの訳だ)にシンクロしてるといいたいのにベイリーの文庫もまた出てこない。チラシにばかり気を取られていて書物を大切にしないのはよくないですねえ。「バスを待ってる列の人が喫茶店に行く…」とか「クリスマスの劇で大声を出して先生があきれる…」とか断片でしか語れないではないか。
ま、いいか。iPodが普通に普及すると文庫はおろかアンソロジーも全集も無用に(というか無意味か)なるんだな。書架というか段ボールというか、書物を置く場所が不要というのは悪いことではないかもね。
ともかく「名もなき孤児たちの墓」読了。新潮社から出た時には見送った。もう当時は縛りというか文庫中心に購入していたからか。のっけの「私の『パソコンタイムズ』顛末記」あと「ドキュメント 続・授乳」とか小説作法がきちんとしていて、でもそれでいて暴力やら悲惨やらあまたの不埒は温存されているから、なんというのか不条理がエンタテイメントしていて、危険で不安な読書体験のはずなのに、やたら読みすすんじゃうな、でも速度はエキスを取り逃がさせはしないか、作者のために少し心配してあげました。
解説は田口ランディ。彼女の小説はどうもわたしにうまく届かないし、また彼女の読み方もどうもわたしと違うようですが、でも中原を好きというのは伝わってきました。