戸梶圭太「センチュリー・オブ・ザ・ダムド」

頑張ってますね、最近の早川書房。“想像力の文学”で「全世界のデボラ」、“現代短篇の名手”もちょっと手ごわいし、この先絶対買わないだろうが“ハヤカワ新書”も刺激的でも手に負えそうもなさに満ちているので書店でツマミ食いさえできゃしない。でもって“ハヤカワミステリワールド”から戸梶圭太だ。まずはカバーを誉めたい。デボラも美しかったがいやあこちらモノクロームがいらいらひっつく感じが怖く、いつもならチープが売り物の戸梶カバーから最も遠そうで、でも期待したくてもちろんそこが非常にうれしい。
帯に“著者最大の問題作、ついに解禁”と記してあったがそりゃ嘘だ。問題作ならサクタロウとか燃えよ刑務所とかのほうがよほどこたえてグロッキー気味だったし、それに比べりゃ多層的な筋立てや多国籍なロケーションなど小説作法に則った“著者唯一の普通小説”ではないか。まあ、もちろん中身にはネロネログチャグチャを押し売りしてくる、サービス精神はいつも以上に全開の戸梶ワールドですのでファンの皆さんご安心を。
ホラー小説大賞最終選考落選作だそうですが、やっぱりいちばんホラーな“自分の目玉を抉り出す”という行為の怖さがちっとも出てなくて(ホラー嫌いな石丸的にはそれはうれしかったが)むべなるかなとしかいえないし、どうして目玉を抉り出さなきゃいけないのかの謎解きもない─わたし的にはドーキンスの「延長された表現型」だなと直感したけど。
ホラーとしてはイマイチとはいえストーリーとしてきちんと収束していて、そこそこ主人公たちはハッピーエンドのようで楽しい読書体験でした。
小さく細切れに挿入されているロナルド幼児時代の幸福な(大人たちは不安だが)エピソードが、実は反転する部分もみたかったのだけれど、片目になったロナルドにその記憶しか残っていないのなら、まあそれはそれでよかったかなと、読み終えた今ではそう思っている。