角川文庫21年2月刊 桜庭一樹 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

この作品を変奏・昇華させたのが「少女には向かない職業」で、でもあちらの発表は1年後、換骨奪胎というのか毒を薄めたというか、上梓された本書のできばえにいたたまれなくなった著者が改訂版として「少女には…」をたいそう急いで書き上げた…ということではなさそうなんだな─なので、同工異曲というのか2作はただの変奏・フーガなのか、2枚並んだ「間違い探し」のポスターだったりして。
同居する狂気の父親に暴力を振るわれている美少女が、妄想でしか自分をこの世に縛っておけなくなり、それゆえに逃れることなく父に殺されるという「砂糖菓子…」と、父(義父だったり養父だったり)を殺すほうを選ぶ「少女には…」と、まあ、ほかにはわたしたちには逃亡とか同じようなものだが旅立ちだとか、そんな解決策を当てはめただけのシェチュエィションは、まあつまりは意味のないものか。行き場のない少女の閉塞感をあらわすためだけの狂気の父や兄、不埒な義父や養父という外部要素なのだろう。そこまで記して描かねばならぬ少女の内面なのかまではなんともいえぬ。
「少女には…」の感想(詳細はこちらで)に性的な要素が排除され“不愉快”とはちがうが齟齬を感じたみたいに記したけれど、そのへんの違和感はこちらにはない。性的不能者としてのなぎさの兄という存在が性の汚濁を引き受けてくれたんでしょうが、でもそういう方策でよかったのかはやっぱり疑問だ。少女の性を描かずに、こんなふうな精神の歪み撓み小説を完成させられるものなのか。ともかく読書の喜びはありました。積んでおいたままの「推定少女」今月買った「七竈…」も早くに読み終えたいですね。