角川文庫 08年12月刊 佐藤雅美 町医北村宗哲

時代小説としてのレベルは高いが、エンタテインメントとしての迫力ではもうひとつではないか。江戸時代の医学のいろいろであるとか病気や薬品のレベルなど、ドラマの中に丁寧に説明していてその知識も表現方法も大層に思えた─のだがそのせいもじつはあってか、臨場感がそがれる。主人公の北村宗哲のヒーローぶり過去の運命などが早々に露見するのは仕方ないが、それにしても読者にハラハラがつたわらない。ほんのすこし著者の視線が高すぎているような気がする。池波にも藤沢にも負けない博識と文体を持っているのにドラマに抒情を注ぎこむ熟練が不足しているような気がする。